公務員制度改革をめぐって、新聞などではあまり話題にならなかったが、重要な2つの出来事があった。
1つは、この5年間、霞が関にとって目の上のたんこぶだった国家公務員制度改革基本法が、今年7月の参院選前に「消滅」したこと。それを受け、各省庁では「祝杯」があ げられたという。
もう1つは、珍しい訴訟。農林水産省のキャリア官僚が、管理職を外され「専門スタッフ職」に異動となったことを不服として、国を提訴したのだ。
「キャリア」とは、国家公務員総合職試験(旧上級甲種)に合格して採用された者をいう。明文の規定はないが、キャリアは幹部に昇進するのが慣行で、かなりの人が最終的には「指定職」に就く。指定職とは、各省の審議官クラス以上の個室、秘書、クルマ付きの上級幹部のことだ。政府全体では1200人ほど。公務員総数の0.3%しかいない。キャリアの昇進スピードは、特急、新幹線などといわれ、ノンキャリアとの差は歴然としている。
農水省のキャリア官僚は、指定職になれなかったのが不満で国を訴えたのだろう。しかしこのキャリア官僚、ノンキャリアからすればすでに手の届かないポストにいるわけで、「失職しないだけでも儲けもの。大げさに騒ぐな」というのが世間一般の反応だろう。
そもそも民間企業の給料が低下している分、官僚の給料は相対的に高くなっている。このキャリア官僚の場合、カットされたといっても年収800〜1000万円は保証されている。専門スタッフ職をつくったときに「高給窓際官僚を大量生産する」と揶揄されたくらいだ。キャリアという事実上の身分制度がまだ温存されているせいで、このような甘ったれた訴訟が起こされるのである。
これら2つの出来事は、「公務員制度改革」が事実上頓挫していることを示している。なにしろ夏の参院選では公務員制度改革は争点にすらならなかったのだ。
第185臨時国会が10月15日、召集された。会期は12月6日までの53日間。成長戦略を具体化するための産業競争力強化法案などが提出されるが、官主導の「産業政策」の色合いが強い。「企業版特区」などの規制緩和が盛り込まれているものの、農業、医療、教育、労働などのいわゆる「岩盤規制」は手付かずだ。
岩盤規制の背後には、常に官僚の既得権が見え隠れする。岩盤規制の緩和・撤廃をしっかりおこなうには、公務員制度改革が避けて通れない。しかし、第1次安倍政権でねじれが生じて以降、公務員制度改革は停滞し、法案も、廃案の繰り返しだった。
(中略)
公務員制度改革に残された課題は多いが、その1つに国家公務員の人事一元化がある。各省庁の人事は各省でおこなわれるのが基本だが、横断的な人事機関として、総務省行政管理局、人事院、財務省主計局給与共済課の3つがある。第一歩は、この3元化した横断組織を一本化することであり、それが内閣人事局構想だ。
ただし、これも「抵抗勢力」の反撃にあっており、財務省はすでにこの統合構想から除かれている。このあたり財務省はさすがに抜け目がない。取り残された格好の人事院も、新設される内閣人事局への権限委譲には断固反対の立場だ。
その人事院とは、どういう組織なのか。国家公務員の人事管理を公正中立におこなうための行政機関の1つで、その権限は独立している。国家行政組織法及び行政機関の職員の定員に関する法律(総定員法)が適用されない人事院は、事務総局の組織や定員を人事院規則で独自に定めることができる。
人事院は3人の人事官の合議組織だが、09年までは、事務系官僚OB、技術系官僚OB、全国紙やNHKなどマスコミOBという出身構成が慣例だった。
人事院は基本的に公務員を守る組織で、その言い分は「公務員は労働基本権の制約があるからその代償が必要」。しかし、「それなら公務員にも労働基本権の一部を付与する」と提案すると、いまどき労働基本権など簡単には行使できないので、それにも反対してくるのが人事院だ。その本音は「政治任用」に対する警戒心。政治任用は役所の人事システムを根底から覆すものなので、人事院は大反対なのだ。
(後略)