記事(一部抜粋):2013年10月号掲載

社会・文化

弁護士の行き過ぎた「返還ビジネス」

まるで新手の振り込み詐欺

 振り込め詐欺といえば、反社のチンピラたちが、騙されやすい高齢者を狙って仕掛けるもの——というのが相場だろう。ところが最近は、弁護士の先生のなかにも、これに手を染める者がいるらしい。内容証明郵便などを送りつけ、「○月○日までに当職の銀行口座に振り込むように……」と強引な請求をするケースが増えているという。
 北海道札幌市で探偵事務所を営んでいるS氏は、去る7月中旬、まったく見知らぬ弁護士事務所から1通の内容証明郵便を受け取った。そこには仰天すべき内容が記されていた。
《前略 当職は札幌市○○、△△(以下、依頼者とします)より依頼を受けた弁護士です。
 さて貴殿は、依頼者に対し、離婚に関するアドバイス業務等に関する契約を締結した旨主張し、その報酬金の請求を行っています。
 しかしながら貴殿のかかる行為は弁護士法第72条本文に違反する非弁行為であり、2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金等の刑罰の対象(弁護士法第77条3号)となっております。同時に貴殿のかかる行為は非弁行為であるため、本件契約は公序良俗違反(民法90条)に該当し無効です。従って今後の支払いはいたしません。
 また、依頼者は貴殿に対し既に××万円を支払っております。つきましては依頼者に速やかに返還いただきたく本書面を貴殿が受領した日から1週間以内に下記口座に振り込みによる方法にて返還されたくよろしくお願いいたします》
 文書は、差出人である弁護士の個人口座を記した後にこう続く。
《仮に上記期間内に返還いただけない場合は、刑事告訴、弁護士会への通報、民事訴訟提起などにより貴殿の責任追及をさせていただきますのでご了承ください。(中略)依頼人へ、電話、メール、書面の投函等で直接連絡されることは厳に控えられたくよろしくお願いいたします》
 文書を受け取ったS氏が困惑した表情でこう話す。
 「寝耳に水とはまさにこのことです。書面が届いた日だって、依頼人とは電話で連絡を取り合っており、そこでは何のトラブルもなかった。しかし、この書面に目を通した時点で、依頼人との折衝は控えざるを得なくなりました」
 しかも文面に書かれていることの多くは事実ではない、という。
 「ウチは探偵事務所。ここに書かれているような、離婚に関するアドバイス業務の契約など、依頼者と締結するはずがない。私が依頼者から頼まれたのは、世間でいわれるところの浮気調査です。どうして探偵が離婚のアドバイスしなければならないのか。私の立場でそんなことをしたら非弁活動にあたることくらい、承知してますよ」(S氏)
(後略)

 

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