記事(一部抜粋):2013年10月号掲載

経 済

金融庁が注目「某地銀」の問題融資

融資直後に計画倒産、長官宛てに告発文

 中部地方某県に本店を置くS銀行は、純資産約300億円の中堅第2地銀。旧三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)との関係が強く、代表はここ数代、旧三和銀行出身者が占めている。
 この一見、なんの変哲もない地方の中小金融機関にいま、金融庁が並々ならぬ関心を抱いている。
 金融庁のさる関係者によると、この9月4日と14日、2度にわたって、ある事案について綴られた1通の文書が、畑中龍太郎・金融庁長官宛てに送りつけられた。文書には差出人の実名が明記されていたというから、毎日のように司法・税務当局などに寄せられる差出人不明のタレコミの類いとは違う。同関係者がいう。
 「書かれている内容は具体的で信憑性がある。我々が手がける『テーマ』としてふさわしい」
 その文書を本誌は入手できていないが、書かれている内容の大要は捕捉することができた。
 某県で40年以上、スーパーマーケットを経営してきたM社という会社がある。地元密着型のスーパーとしてチェーン展開を図り、一時は年商180億円を売り上げるなど、地域の有力スーパーとして健全経営を続けてきた。そのM社の主要取引銀行がS銀行。同行が相互銀行になる以前、無尽のときからのつきあいである。
 経営が順調だった時代には、当然、健全な取引が両者の間でおこなわれていたわけだが、数年前からM社もご多分に漏れず、全国展開する巨大スーパーが進出してきた影響を受け、売り上げを大きく減少させてしまった。
 みるみるうちに下がっていく業績。苦境に陥ったM社を、長年取引関係にあったS銀行は必死に支える。2012年5月には2億円の融資を実行。さらに同年12月、暮れも押し迫った時点で今度は3億円を融資する。半年あまりの間に計5億円の融資。このときM社の売り上げは全盛期の半分に落ち込み、8億円あまりの赤字を出していた。
 「M社に赤字脱却の明確な戦略や展望があったわけでないとすれば、金融機関として明らかに不適切な融資です」(前出金融庁関係者)
 むろんS銀行としては、融資によってM社が窮地を脱し、業績を好転させることができると踏んだからこそ融資したのだろう。しかし、結果として不適切な融資だったことが、すぐに明らかになる。
 年が明けた13年1月中旬、M社は突然、スーパー全店舗(8店舗)を閉店し、事実上倒産という事態に至ってしまったのだ。
 「金融庁の自己査定ガイドラインに沿っていない融資だったということです。S銀行はこの事実だけでもペナルティーを科されて当然。しかもこの事案について、同行は一切の報告をしていないので、報告義務違反にもなる」(同)
 金融庁はS銀行の甘い査定に問題があったと考えているようだが、これにはもう一枚、裏があった。M社の突然の倒産が、いわゆる偽装倒産である疑いが濃厚というのだ。
 短期間に5億円もの融資をさせたうえで、1カ月もしないうちに倒産。むろん5億円は焦げ付き、会計上、貸倒で処理される。いってみれば、巨額の生命保険に加入して、1カ月も経たないうちに加入者を亡きものにしてしまうようなもの。保険金詐欺の銀行融資版といったところだろうか。
 しかし、そうであっても、カラクリを見抜けなかった銀行に咎が生じるのだ。
 「この不適切な融資、S銀行がM社の実情を知らなかったために実行された、ということになっていますが、どうやら銀行内部に加担者がいたようです。融資された5億円のうち、多くが関係者の間に還流し、中抜きされた可能性がある」(同)
 事実とすれば悪質極まりないが、裏はまだまだ続く。
(後略)

 

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