安倍政権が発足して3四半期が過ぎた。明るい話題を毎日のように発信し、オリンピック招致にも成功、今後ますます景気が良くなるのではないかという期待が高まっている。しかし、安倍首相の歯切れのよい発言や、矢継ぎ早の会議体の設置、審議の方向と方法を観察すると、別の側面が見えてくる。それは大別すると3つのカテゴリーに分類される。
1つは証拠もないのに「言い切る」という傾向。例えばリオデジャネイロでの記者会見で東京電力福島第一原発の汚染水の問題を問われた時に、政府が責任を持って対処する、海洋汚染は港湾内の0.3平方kmの中に閉じ込められて管理されている——と答えている。しかし東京電力にできないことを政府が責任を持ってどう解決するのか、専門家にもさっぱり見当がつかない。400億円の予算をつける、と言うことぐらいならできるが、汚染水問題は時間との勝負である。つまり、毎日400トン湧き出てくる地下水をどうやって核分裂生成物と接触しないようにするかという「急ぐ問題」と、そうした問題を解決する工事をするには放射線レベルが高すぎて「しばらく待たなくてはいけない」という問題の折り合いをどうつけるのか。まして、港湾内は防波堤の下が柵になっており外洋とは仕切られていない。どうして「閉じ込められている」と言えるのか。考えられるのは無知、または嘘ということである。
2つめの問題は施策の多発である。長年会社経営の指導をしていると分かるのだが、業績の悪い会社と良い会社の違いは1つに集約される。ダメ会社は業績を立て直すためにやらなくてはいけないことを10も20も言い出すが、結局どれも中途半端か全然実行されないという悪循環に陥っている。良い会社は真の問題を1つに絞り、その解決に数年しつこく取り組んで業績を改善させる。
会社が大きくなるほど、経営者のメッセージが末端に浸透するのに時間がかかる。だから1つのことを言い続けなくてはならない。数週間で次のメッセージが流れてくると混乱するし、「今度は何が来るのか待って」から反応するようになる。そして数カ月後には何を言っても反応しなくなる。
第3の矢は成長戦略だが、すでに20以上のアイデアが新聞紙上を飾った。消費税を上げる代わりの対策や減税案に至ってはどれが決定事項か分からないまま日替わりメニューで報道されている。一方、高校の無償化には所得制限が入り、高齢者医療も所得によって負担が細かく決められると伝えられ、誰にとってどのくらいの朗報なのか分からなくなってしまった。つまり国民は数百の、時として相反する効果が見込まれる情報を多重的に受け取って、「安倍政権は民主党と違って何かやるぞ」という期待はもうなくなり、埃が全部澱むまで様子を見ようという態度に変わってきている。
3つめは、2つめの現象の真の原因でもあるのだが、実は安倍政権は新しいことをやっているわけでも何でもなく、自民党の本質である「官僚依存、役人に丸投げ」をしているだけだということである。そのスポークスマンが世界を飛び跳ねる安倍パーフォーマンス野郎という構図。
(後略)