記事(一部抜粋):2013年9月号掲載

政 治

今からでも遅くない消費増税より歳入庁

【霞が関コンフィデンシャル】

(前略)
 それでも、財務省は必死に増税を訴えている。8月9日には「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」が1008兆6281億円に達したと発表し、マスコミは「国の借金が初めて1000兆円を超えた」と報道した。
 しかし、これを「国の借金」と呼ぶのは会計的には不正確だ。国の借金を包括的に表しているのは、国のバランスシートの負債合計である。国のバランスシートは毎年公表されており、2年前の11年6月28日に公表された「国の財務書類」では10年3月末現在の負債総額が1019兆173億円となっている。つまり、この時点で国の借金は1000兆円を超えていたのだが、この事実は大きく報道されなかった。国の負債の一部にすぎない「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」が今になって大々的に報じられたのは、マスコミの不勉強もあるが、「国の財務書類」を強調したくないという財務省の思惑があってのことだ。というのも、「国の財務書類」のバランスシートには、財務省にとって不都合な事実が書かれているからだ。
 12年3月末現在のバランスシートは、負債総額が1088兆円で、資産総額は629兆円となっている。財務省は、これまで借金が膨大であると主張して財政再建の重要性を強調してきた手前もあって、資産総額が明らかになることには反対だった。それが公表されるようになったのは最近のことだ。
 IMF(国際通貨基金)などの国際機関では、国の負債の大きさを見る時、そこから資産を引いた「ネット債務」を用いるのが普通だ。資産を無視して負債だけを見るのは適切でない。
 しかも日本の場合、資産の中身が問題になってくる。
 金融資産は、現預金18兆円、有価証券98兆円、貸付金143兆円、運用寄託金111兆円、出資金59兆円の計428兆円である。
 運用寄託金は年金資産だからまだいいとしても、有価証券は外為資産、貸付金と出資金はいわゆる特殊法人等への資金提供だ。変動相場制の国ではふつうこれほど大きな外為資金は持たない。また、いわゆる特殊法人等は官僚の天下り先として問題になっており、先進国でこれほど広範な政府の子会社を持っている国もない。
 1000兆円の負債を抱えていると、金利が上昇した時の利払費が大変になるという。その時には税収も増えているが、それを横に置いても、まずは資産を処分して負債を圧縮すればいい。貸付金と出資金はいわゆる特殊法人等を民営化すれば処分できるはずだ。
 日本では官僚の天下り先確保が優先され、民営化は頓挫している。それなのに、財政危機だと騒いで増税する。国民を苦しめる一方で、官僚は国の資産を処分せず、自分たちの天下り先をちゃっかり確保しているのだ。
 国の資産処分は財政危機に陥った国ならどこでもやっていることだ。それをやらないのであれば、日本は財政危機ではないという話になってしまう。
 「消費税は社会保障のために必要だ」という意見も怪しい。そもそも、消費税の社会保障目的税化は、先進国では例がなく、理論的な根拠すらない。社会保障は所得再分配であり、その原資は保険料と所得税というのが社会保障と税の原則だ。
 また、資産・所得の捕捉に不公平があると所得再分配では致命的になるため、国民番号制や歳入庁が不可欠で、それは消費増税の前に導入する必要がある。
 しかし、消費増税を社会保障に使うという税ありきの話が先行し、増税が既成事実化されようとしている。
 社会保障制度改革国民会議が8月6日に報告書を安倍首相に提出し、関連法案は秋の臨時国会にも提出される予定だ。要するに来年4月の消費増税で得られる財源の使いみちである。
(後略)

 

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