記事(一部抜粋):2013年8月号掲載

経 済

「テロ対策」を名目に個人情報まで掠め取る米国

【証券マン・オフレコ座談会】

B ソフトバンクによる米携帯電話3位のスプリント・ネクステルの買収がやっと終わったね。
C 約1.7兆円の巨費を投じてスプリント株の78%を保有すると発表した。その発表を受けて米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、ソフトバンクの格付けを2段階引き下げたから、7月8日の同社株は約4%も下落した。
A 買収は無理かなと思ったけど、考えてみれば当然だったね。なにしろ、米政府による監視プログラム「プリズム」を暴露したエドワード・スノーデンが勤めていた民間諜報会社も絡んでいたようだし。
B 「ブース・アレン・ハミルトン(B.A.H)」のことだよね。同社の株は4カ月ぶりの大幅安になったみたい。B.A.Hがスプリント社とつながりがあるという話は初耳だけど?
A 直接的ではないからね。
C B.A.Hの親会社は「カーライル・グループ」。「元大統領のクラブ」と呼ばれている未上場企業への投資を専門におこなう投資ファンドだよ。カーライルが投資した先を最終的にソフトバンクが引き受けたという「過去」がある。
B たとえば?
C ADSL大手のイー・アクセス(以下、イー社)は現在ソフトバンク系列だけど、2001年頃はカーライルが大株主。ウィルコムも、元はカーライルが筆頭株主で、現在はソフトバンクによって経営再建中。ただスプリント社とカーライルとの関係がわからない。
A スプリント社の重役がカーライル・グループの役員になっているんだ。Cさんが言うように、イー社にカーライルが第3次私募増資で資本参加したのが01年9月。英ボーダフォンが筆頭株主だった日本テレコムがイー社の筆頭株主になったのが02年6月。日本テレコムは米リップルウッドホールディングの傘下を経て04年5月、ソフトバンク傘下に入った。カーライルがイー社株を売却したのが04年6月だから、カーライルはイー社がソフトバンクの傘下になるのを待ってから売却したみたい。
B ウィルコムのケースは?
A イー社株をソフトバンクに売却したすぐ後の04年6月21日、ウィルコムの買収を発表した。買収額は2200億円で、同年10月1日に筆頭株主になったよ。
C 10年に会社更生法を申請し事実上倒産したから、カーライルのプライベート・エクイティ・ファンド(PEF)としては失敗に終わったってことだよね。
B ソフトバンクとの関係は?
A 10年8月、直接支援することで管財人と合意して、同年12月にソフトバンク・グループ4社目の通信事業者となったよ。
B カーライルが、まさか投資に失敗するとはね。
A 事前にグループ3社で分散投資をしていたから痛手は最小限だったはずだよ。その年のリターンは全体で2倍のパフォーマンスだったから失敗ではないと思うよ。
B ソフトバンクが安値で、4社目の通信事業者を取得できた?
A そういうこと。
C 破綻企業並みの株価だったスプリント社は、ソフトバンクの買収で息を吹き返した形だけど、それにしても買収金額が高すぎる。社長の孫正義は投資家に対して買収メリットをことさら強調していたけど、ペイするとはとても思えない。そこまでしてスプリント社を買収する意味があるのかな?
A うがった見方をすれば、間接的にB.A.H社に絡んでいる点がポイントになると思う。
B B.A.H社ってカーライルの傘下だったよね?
A そう。カーライルが08年5月、B.A.H社の政府関連部門を買収した。同社は「政府の諜報活動の民営化」の一端を担った企業の代表格だったんだ。
B 諜報活動の民営化って? 米政府による盗聴システムを告発したスノーデンが勤務していたの?
A スノーデンは元米中央情報局(CIA)職員。民間会社といっても、働いている職員は元CIAというパターンが結構ある。
B 「対テロ対策」の名目で、イスラム諸国だけでなく、同盟国のEUや日本まで監視するなんて、馬鹿げている。
C 対テロ対策というのはあくまで方便であって、本当の狙いは企業情報の入手だよ。
(後略)

 

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