(前略)
その財務省が仕組んだと邪推できるのが、「GNI」(国民総所得)という新語だ。
「成長戦略」と「骨太方針」の中に仕掛けられた言葉で、これにはマスコミもまんまと騙された。そう、安倍晋三首相が「10年間で1人当たり国民総所得を150万円増やす」と発言し、一躍注目を集めるようになった言葉だ。いまでは「国の成長率はGDP(国内総生産)ではなく、GNIで見るのが適切だ」といった議論まで出てきている。
GNP(国民総生産)に代わってGDPが使われるようになったのは1980年ころだ。理由は、GDPのほうが《国内の景気をより正確に反映する指標》だから。そのように内閣府のホームページに書かれている。
同ホームページにはさらに《GNPの概念はなくなり、同様の概念として「GNI(Gross National Income)=国民総所得」が新たに導入された》とも書かれている。つまりGNIはかつてのGNPの復活。国際機関ではGNPではなくGDPが使われているが、日本だけが世界に逆行しているかのようだ。
ちなみに、2011年度の名目GDPは473兆円で、名目GNIは488兆円。過去10年間の平均伸び率をみると、名目GDPはマイナス0.56%、名目GNIはマイナス0.43%と、名目GNIのほうが若干伸び率が高い。少しでも高い数字に見せたいという官僚の気持ちの表れなのか。
そうだとしたら、かわいいものだが、おそらく官僚側には隠れた意図があると思う。
マスコミは目新しい言葉に飛びつくという習性がある。まして、不勉強な記者はGNIが用いられる理由が書かれている内閣府のホームページなどは読んでおらず、わからない言葉に出くわすと、すぐに官僚に聞く。そして官僚の説明を疑うことなく素直に受け入れる。この習性を利用して、自分たちにとって都合の悪い質問を回避するのは官僚の常套手段だ。
では、どんな質問を避けたかったのか。
「10年でGNIを150万円増やす」ということは、GDPで考えても「10年間で平均3%増」ということだ。この「平均3%」という数値は、10カ月前に民主党が打ち出した名目GDPの成長率とまったく同じものである。
アベノミクスで「異次元の政策」といいながら、その成果ともいえる名目経済成長率が民主党と同じなのはおかしいではないか——。この質問を避けるため、マスコミが知らない言葉(GNI)を持ち出し、さらに「名目経済成長率3%」といわずに、「150万円増える」と言い換えたのだろう。
後はマスコミが、GNIと言う言葉と150万円という数字を垂れ流すので、国民はその言葉と数字しか頭に入らなくなる。そうすることで、10カ月前の記憶を呼び起こさないよう仕向けているわけだ。
なぜこんな手の込んだことをするのか。
(後略)