(前略)
古今東西、高齢者を粗末にする国が栄えた例はない。高齢者対策がキチンとなされて初めて、高齢者本人も家族も安心して財布のヒモを緩めるわけで、そうではない状況でいくら景気回復といわれても、それは富裕層限定、一般庶民には無関係というものだ。
アベノミクス効果による景気回復を信じる人は少なくないようだが、安倍首相の地元で長年放置されているこの問題を知れば、おそらく認識を改めるのではないか。
まず、問題の市営住宅に住むYさん(72)の嘆きの声を聞こう。
「とにかく周辺の治安は悪くなる一方です。いまでは市営住宅の大半はヤクザないしその関係者に転売され、1階の店舗部分では白昼堂々闇金が営業している有様。覚醒剤の密売もおこなわれていると聞いています。実際、この付近では、刃物を振り回すなど明らかに普通の精神状態とは思えない連中がたむろしている。また、商売のトラブルなのか、闇金の債務者への嫌がらせなのか、市営住宅の駐車場のクルマに火がつけられたり、タイヤがパンク、フロントガラスが割られるなどの被害が頻繁に出ている。怖いので、なるべく出歩かないようにしています。散歩? できないですよ」
Yさんによれば、110番しても警察は表面的に処理するだけで、トラブルは減るどころか、むしろ増える一方だという。
別の高齢者Mさん(70代)は、住宅を転売した知人の哀れな末路についてこう語った。
「転売の相場は300万円といったところ。市営住宅の月の家賃は7000円ぐらい(広さは3DK)なのに、高額で売れるのです。それで知り合いは転売したのですが、暴力団関係者の口車に乗せられて売却金を全額預けたところトンズラされてしまった。いまでは寝る場所もなくなって路頭に迷っている。福祉課へ相談? できるわけないでしょう」
市営住宅の転売と聞いて首を傾げた読者は少なくないだろう。市営住宅は当然のことながら分譲ではなく賃貸。所有者は市で、賃借人に転売の権利などあるわけがない。完全な違法行為である。
だが家賃が超格安のため、違法を承知のうえで、転売目的、あるいは自身が住むため、口コミなどで全国各地のヤクザ者が結集しているというのだ。
平日の昼間、試しに現場を歩いてみると、人の姿はまったくといっていいほど見かけない。居住者は高齢者がほとんどなので、出歩かずに家にいるか、もしくは付近を散歩していてもよさそうなものだが、人の気配が感じられない。郵便受けにも、本来書いてあるべき住民の氏名が書かれていない。大半が転売されてしまい、しかも現在の入居者は名前を出せないからだ。
(中略)
そうしたなか山口県は、公営住宅から暴力団を排除する全国的な動きに呼応し、07年末に条例を改正して県営住宅から暴力団を排除する体制を整えた。翌08年には下関市も同様の条例改正をおこない、下関警察署も暴力団を排除すべく情報提供を呼びかけるようになった。だが、前出・事情通はこう証言する。
「県は暴力団を排除するため、実際に行動を起こしましたが、下関市はポーズだけで何もやっていません。情報提供があっても、ほとんど無視ですよ」
そこには「同和問題」が深く絡んでいるという。
問題の地区の市営住宅は「改良住宅」と呼ばれ、そもそもは「同和住宅」だった。ある同和団体が市長と癒着、またその同和団体が腐敗し利権化した結果、一帯の市営住宅が治外法権化し、警察も手をつけられなくなったという。
(後略)