記事(一部抜粋):2013年4月号掲載

連 載

【平成考現学】小後遊二

安倍の二面性

 言葉遊びをしながら安倍晋三総理の持つ二面性に焦点を当ててみたい。「晋三」転じて「新造」及び「心臓」と揶揄しておく。
 新造はお腹が痛くて途中退場した五年前と同一人物とは思えないほど豹変した。文字通り、「新造」されたと思うほどである。心臓は憲法をはじめ戦後処理など全ての歴史認識を改める、かなり強引で無神経な「心臓」の持ち主である。前者を「安倍ノミックス」、後者を「安倍のミックスドアップ」とでも呼ぼう。
 安倍内閣は幸先の良いスタートを切った。自民党が積み残し、民主党が混乱に拍車をかけた諸問題の一掃に重点を置き、一定の成果を上げている。「最低でも県外」の普天間基地は「県外はあり得ない」という認識から名護の漁業組合と話をつけ、沖縄県知事に認可申請するという意表を突いた逆順序で辺野古での工事を着工しようとしている。TPPもオバマ大統領に「聖域なき交渉ではない」と言わせたとして、交渉参加を宣言している。自民党の議員達にも反対意見を語らせガス抜きをし、競争力のない日本の農業を「成長産業にする」とか、高関税を維持することによって「国益を守る」とか宣って「信じてください」でケリをつけた。この局面では心臓と新造両方の側面を見せた。
 日銀総裁人事では弱小政党を二分して、副総裁1人ずつに賛否を振り分け、結果的に参議院でも3人とも全て合意を取り付けている。
 原発に関しても徐々に再稼働への舵を切り、ロシアとの交渉でも民主党の発案である森喜朗元総理の派遣で進捗を見せている。「経済は心理」とばかりにインフレ期待を高め、円安を誘導する。先行きがバラ色のように語ることで株高を生み、購買力を高めようと電話で各企業のトップに「給料を上げてやってくれ」と口先介入する念の入れようである。民主党にはいなかった行動的CEOである。
 安倍ノミックスも株高も実態が伴っていないのでいずれ化けの皮は剥がれるが、それまで、すなわち7月の参議院選挙まではこの「言われなき熱狂」は続くだろう。
 問題は参院選で自民党が大勝し、衆参両議院で単独過半数を握った時に「もう一つの安倍晋三が出てくる」という点である。
 靖国参拝を総理に就任する直前に済ませ、親しい人には「総理である間は封印する」と語っているが、靖国が問題となり、昭和天皇が参拝を取りやめたのはA級戦犯の合祀以降である。安倍総理はこの「A級」という判断そのものに挑戦している。「東京裁判は戦勝国の論理。自分は納得していない」と発言し、サンフランシスコ条約を締結した日を「主権回復の日にしよう」と呼びかけている。この流れの安倍総理は実は前回の安倍晋三に直結している。(後略)

 

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