(前略)
本稿執筆時点では、白川氏の後任が誰になるかはまったく不明だ。本誌が出るころには人事が固まっている可能性もあるが、あえて次期総裁候補にも触れておこう。
これまでにマスコミが取り上げた候補は、ほとんどが財務省・日銀から流された情報を元にしている。例えば、武藤敏郎・大和総研理事長(69)、黒田東彦・アジア開発銀行総裁(68)、岩田一政・日本経済研究センター理事長(66)、渡辺博史・国際協力銀行副総裁(63)、伊藤隆敏・東大大学院教授(62)。これを【A面】という。
1方、渡辺喜美・みんなの党代表が安倍首相に要望したのが、中原伸之・元日銀審議委員(78)、浜田宏一・イェール大学教授(77)、岩田規久男・学習院大学教授の(70)、山本幸三・衆院議員(64)、竹中平蔵・慶応大学教授(61)ら。これを【B面】といおう。
なお、参院(総定数242)は欠員があるため現在236。議決に加わらない議長を除くと過半数は118だ。自公で102なので、同意人事案の可決には16以上の賛同が必要。つまり民主(87)、もしくは、みんな(12)・日本維新の会(3)・新党改革(2)との連携が必要になる。
新総裁の要件として、各人、各党からは、それぞれだいたい3つの条件が出されている。1英語力、2組織マネージメント力まではどこも同じだが、3番目に違いがある。麻生太郎氏は財務相就任前には「金融の理解」といっていたが、財務相就任後は「健康」というようになった。民主党は「独立性」、みんなの党は「博士号」といっている。
最終的には安倍首相の判断になるが、民主党と組む場合は麻生財務相の意向でA面が提示され、それに民主党が乗る公算が強い。
みんな・日本維新の会・新党改革と組む場合には、おそらくB面がベースになろう。
市場に歓迎されるのはB面だ。なぜなら、A面だと財務省に遠慮して為替に及び腰になってしまうからだ。
今回のアベノミクスでわかったことの1つは、「為替は金融政策で決まる」という単純な事実である。為替は通貨の交換比率なので、2国間の金融政策の差によって変動する。通貨量が相対的に少ない国の通貨のほうが希少性があるため相対的な価値が高くなるという理屈で為替変動の大半は説明できるのだ。
この「金融政策で為替は決まる」という事実は、「財務省による為替介入は効果がない」という話につながっていく。実際、先進国には、日本ほど為替介入の結果である外貨準備の大きな国はない。
しかし財務省は、為替介入によって民間金融機関に運用ビジネスを与えることで天下り利権を得ているので、「為替介入」を手放すことはできない。財務省の国際畑はいま、外国為替資金特別会計(外為特会)利権の維持に汲々としている。
こうした背景があるため、A面の人は、為替についてあまり語らない。中には1ドル75円でも円高ではないと主張する馬鹿者もいる。そういう主張をする人は、インフレ目標2%と、1ドル75円でも円高でないという議論の折り合いをどのようにつけるのだろう。
みんなの党の3条件は、世界では当たり前だ。むしろ財務相就任後に3条件を変更した麻生氏のほうが奇妙だ。麻生氏は学者はダメだと言っているが、G20の7割は、中央銀行の総裁に博士号所有者が就いている。学者はダメなどといっていたら世界から笑われる。安倍政権が「次元を超えた金融政策」を世界にアピールしたいなら、やはり学者のほうがいい。
マスコミは砂糖を入れないコーヒー(無糖=武藤、ブラック=黒田)が好きらしく、A面ばかり取り上げている。安倍首相は果たしてA面でいくのか、それともB面でいくのか。
新総裁の人事も気になるところだが、サラリーマンとしては、白川総裁がいかほどの退職金をもらうのかにも興味がある。
日銀のホームページによると、退職金額=役員俸給×0.125×在職月数×業績勘案率(0.0〜2.0)。
これに基づいて試算してみると、0〜3000万円程度になる。ポイントは、業績勘案率がどのくらいになるかだ。前任の福井俊彦氏は、業績勘案率が1.5で2491万円の退職金だった。
業績勘案率は業績評価委員会が決めることになっているが、この業績評価委員会のメンバーは日銀の審議委員だ。つまり政策決定会合に参加している身内である。もちろん形式的には外部の有識者をメンバーとすることもできるが、それは委員の過半数が必要と認めた場合に限られる。だから自分たちだけでお手盛りができる。
国会で誰かがこのことを質問すれば、仕方なく外部の有識者をメンバーに入れるだろうが、結局は日銀の御用有識者になる。白川氏の場合も業績勘案率1.5となって、2500万円程度の退職金になるだろう。
中央銀行の総裁の業績は、本来どう評価すべきだろうか。
中央銀行は物価の安定のために存在しているのだから、毎月公表されるインフレ率の実績をみればいい。(後略)