10月11日、東京地裁で、興味深い和解が成立した。まずは、その事実を報じた『産経新聞』(11月5日付)の記事を引用する。
《建設会社との間で仕事上のトラブルを抱えた男性から仲裁交渉を委託された弁護士が、指定暴力団住吉会系の組長に交渉を妨害されたとして、住吉会トップの福田晴瞭会長を相手取り1000万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こし、福田会長側が300万円を支払うことで和解が成立していたことが4日、分かった。(中略)訴状などによると、男性は空港の関連工事をめぐり、平成19年四月ごろから建設会社に依頼されて、資材の確保に協力。経費の支払いなどをめぐって建設会社側とトラブルになったため、横浜弁護士会所属の村田恒夫弁護士に交渉を委託した。
村田弁護士は21年4月、建設会社側と交渉するため、男性とともに工事現場の事務所を訪れたところ、見知らぬ男が村田弁護士に対して「ここは円満に収めてほしい」などと持ち掛けた。その際、男は住吉会の名前が入った名刺を男性に手渡したという。
後日、この男が実際に住吉会の2次団体の組長であることが判明。村田弁護士は「暴力団の名前で威迫され、交渉業務を妨害された」として今年3月、組長に加えて、この件に関与していない福田会長にも「配下の組長についての使用者責任がある」として、2人に対して1000万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした》
記事は「住吉会トップの使用者責任」を焦点に書かれており、交渉に暴力団幹部を同席させた「建設会社」の名前はなぜか伏せられている。
村田弁護士が2009年4月22日、交渉のために訪れたのは羽田空港第四滑走路の建設工事現場である。総予算2兆円をゆうに超える、この大規模工事を取り仕切った大手ゼネコン、鹿島建設の現場事務所を、依頼人のS氏とともに訪れたのだ。このとき鹿島側は、M執行役員(当時)、A管理部長(同)、そして住吉会幹部(同)のOが対応した。
驚いたことに、日本を代表する建設会社の役員が登場する交渉の場に、暴力団の幹部が、当事者の一人として同席したのである。
このときO氏は慎重を期したのか、初対面の村田弁護士に名刺を渡さずじまいだったが、S氏には代紋入りの名刺を渡している。
S氏は、鹿島の下請けとして第四滑走路の埋め立て工事に参画。それにかかわる代金の支払いを鹿島に要求していた。その埋め立て工事は、届出以外の建設工事現場から出た砂利や粘土などを不法に投棄したという嫌疑で鹿島に家宅捜査が入った、いわくつきの工事である。(後略)