社会・文化
猪瀬直樹にもあった「ネタ本隠し」の過去
大宅賞作品『ミカドの肖像』 参考文献リストにも載せず
ジャーナリストの佐野眞一が『週刊朝日』で執筆した「ハシシタ 奴の本性」が、連載1回目で打ち切りになったのをきっかけに、佐野が過去に発表した作品群に、他人の著作から盗用した記述が多々あるという、いわゆる「パクリ批判」が沸き上がっている。佐野のかつての仕事仲間で、現東京都副知事の猪瀬直樹がツイッターで、盗用の事実を具体的に指摘したことで騒ぎが広がった。
しかし、その猪瀬にも佐野を嗤えない過去がある。大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した出世作『ミカドの肖像』(小学館、以下「ミカド」、1986年12月刊)には「ネタ本」があったが、その事実について一切口をつぐんでいるのだ。
そのネタ本とは『堤義明 悪の帝王学』(早川和廣著、エール出版、以下「帝王学」、81年12月刊)と『西武商法 悪の構図』(草野洋著、同、以下「悪の構図」、83年3月刊)である。しかし「ミカド」の本文中に、注釈・引用文の類はなく、参考文献にも書名は載っていない。
(中略)
実は「ミカド」のデータマンは2人いた。『白い血液 エイズ上陸と日本の血液産業』などの著作があるジャーナリストの池田と、『年金大崩壊』などを著したジャーナリストの岩瀬達哉である。
その池田が言う。
「猪瀬氏に草野氏の『悪の構図』を渡したのは事実です。『ミカド』の連載が始まる1年ほど前から取材や資料集めを始めたが、実は草野氏の本が出る直前に、僕は月刊誌『現代の眼』で西武鉄道のことを記事にしていて、そのとき草野氏からコメントをもらっていた。その記事のコピーと一緒に草野氏の本を猪瀬氏に渡しました」
(中略)
池田によると、1980年代に入って、猪瀬が「天皇陛下が亡くなったときにどうなるのか」をテーマに『週刊ポスト』で書くという話が決まり、池田らは古本や雑誌記事、新聞記事などありとあらゆる皇室関係の資料を集め、読みこんだという。
「古本は2000冊くらい集めたのではないか。大宅文庫で探すと物凄い量の雑誌記事が出てくる。勘を頼りにその中から新しく面白そうなものを探そうとするが、天皇陛下はマスコミにやり尽くされたテーマで、新しいものなんてほとんどありませんでした」(池田)
目新しい資料が乏しい中、「帝王学」や「悪の構図」、池田の記事が切り込んだ「西武鉄道の土地」には斬新な視点があり、結果としてそれが「ミカド」の核心部分になった。だが「ミカド」はネタ本の存在を隠した体裁になっている。
複数のマスコミ関係者は、草野が「猪瀬にネタをパクられてさ、問い質そうと追い掛けたら逃げやがってさ……」と話していたのを記憶している。
前述の投稿で草野は《「この部分がなければ、猪瀬の『ミカドの肖像』はどうということもないし、大宅賞も受賞していないだろう」という声しきりである》《拙著を無視されて文献リストにもないことを憤っているのではなく……》と書いていたが、実際は怒っていたのだ。
「『ミカド』の連載がポストで始まってからだと思うが、草野氏の視点を使った記述があるのに、出典も何もないから、これちょっとあぶないよ。こういう書き方はよくないんじゃない? と猪瀬氏らに苦言を呈したことがあった。すると『そんなことはない』と怒ったような態度をされました」(池田)
『噂の真相』に草野の投稿が載った後、猪瀬から池田に深夜、電話が入った。草野の投稿に池田のコメントがあったことを猪瀬は咎めたが、池田はこう反論したという。
「事実じゃないですか。ノンフィクションをやっている人間がウソを言ってどうするのか? 僕が何であなたをかばわなければいけないのか?」
池田は言う。
「草野氏の視点は第㈵部『プリンスホテルの謎』全体に関わってくる問題です。ノンフィクションはゼロからは生まれない。土台があって、そこへさらに積み上げ、引き継がれていくものです。後から続くライタ—たちがわかるようにしておかなければフェアじゃない」
(後略)