東日本大震災の復興予算(2011年度から5年間で19兆円)の多くが被災地以外での事業に支出されていた問題が、今ごろになって盛り上がっている。
火をつけたのは9月9日に放映された「NHKスペシャル 追跡 復興予算19兆円」。番組では、沖縄の国道、反捕鯨団体対策費、国立競技場補修費、国内立地推進事業費補助金などを具体例として俎上に載せていた。
国民は復興のために、所得税2.1%上乗せ二五年間などの「復興増税」をあえて選択したのに、それを被災地以外に使うと何ごとか——。政府の行政刷新会議が検証に乗り出したり、財務省も実態調査へ動き出しているが、対応が生ぬるいとマスコミは批判する。
民主党の細野豪志政調会長は「昨年は(震災で)日本経済が破綻する瀬戸際だった。当初は被災地に限定することを考えたが、自民党からも意見をいただいて日本全体で予算をつけようと判断した」「この判断は全体としては間違ってなかった」と説明(中略) 事業仕分けで有名な蓮舫氏は「もともと内閣が出した復興基本法案は対象を被災地に限定していたが、自民党、公明党からの建設的な意見も踏まえ、対象が日本全国になった」と自民、公明両党にも責任があるとしたうえで、初の本格的復旧・復興予算となった2011年度第三次補正予算の編成をめぐっての自民党の行状を、「さらに7.1兆円上積みしろといわれた」「立地補助金が足りないから5000億円上乗せしろといわれた」などと暴露した。
本稿では、復興予算をめぐる事実関係を整理して、被災地以外への支出は許せないというマスコミの意見が妥当なのか、官僚が国民を騙したのか、与党、野党の政治家は知らなかったのか知っていたのか——について検証してみる。
震災直後に、政府は「東日本大震災復興構想会議」を立ち上げた。仕切ったのは財務省出身の内閣官房副長官補だ。復興構想会議が財務省主導の下で進められていたことは、大震災直後の本コラムでも次のように伝えている。
《財務省のさらに凄いところは、大震災を逆手にとって増税を仕組んだことだ。
「復興構想会議」が4月14日にスタートしたが、その会議の冒頭で五百旗頭真議長から復興税の構想が出された。何の議論もされていない段階でいきなり増税の方向が打ち出されたのだ。実際、これをきっかけに一気に増税ムードが強まってきた。震災の被害にあった人の役に立ちたいという国民の素直な気持ちを利用した、あざといやり口だ》(11年5月号)
復興構想会議はいきなり増税方針を示す一方、11年5月10日には「復興構想7原則」を打ち上げる。その「原則5」でこう謳っている。
《被災地域の復興なくして日本経済の再生はない。日本経済の再生なくして被災地域の真の復興はない。この認識に立ち、大震災からの復興と日本再生の同時進行を目指す》
震災直後から、財務省は復興予算を被災地以外にもばらまくつもりだったことがうかがえる。現に、これを受けて6月24日に成立した「東日本大震災復興基本法」の第2条(基本理念)には《単なる災害復旧にとどまらない活力ある日本の再生を視野に入れた抜本的な対策》という文言がある。
この基本法は、政府から提案された「東日本大震災復興の基本方針及び組織に関する法律案」を撤回し、民・自・公の共同提案によって成立したものだ。しかし当初の政府案も「単なる災害復旧にとどまらない抜本的な対策」となっている。被災地以外にもばらまくという方針は、当初より踏襲されてきたものであることがわかる。だから、細野氏や蓮舫氏が主張する「当初は被災地に限定することを考えた」というのは正しくない。
復興基本法の成立を受けて7月29日に政府が打ち出した「東日本大震災からの復興の基本方針」でも《被災地域の復興は、活力ある日本の再生の先導的役割を担うものであり、また、日本経済の再生なくして被災地域の真の復興はないとの認識を共有する》と、被災地の復興だけではなく、「日本の再生」というバラマキに都合のいい文言が盛り込まれている。
これらの事実から明らかなのは、被災地以外へのバラマキ方針は、政府、民、自、公ともに当初から首尾一貫しているということだ。
実はマスコミも、この政府方針に賛成の立場をとってきた。それを今になって批判するのはいかがなものか。
とりわけ、これら復興会議、復興基本法の国会審議、政府方針の決定に閣僚として関わった片山善博氏が、今になってテレビで被災地以外へのバラマキを批判するのは、明らかにおかしい。(後略)