ここに1通の内部告発文書がある。書かれていることが事実なら、国民の安全にかかわる重大な問題である。文書の一節にこうある。
《4月、トラック1台分のエアフィルターが段ボールに入れて運ばれてきた。それを屋内に1カ月ぐらい放置し放射線の数値が下がるまで待ってほかのゴミと混ぜ、パッカー車で最終処分場に送った…》
文書は、都内の産業廃棄物処理業者X社の内部からもたらされたものである。
そして、ここでいうエアフィルターとは、防御マスクに装填する15センチ四方ほどの化成品のことである。掃除機などに取り付ける紙フィルターのようなものだ。防御マスクは、福島原発事故の際、処理にあたった作業員や、事故後視察にきた担当大臣らが被っていたあのマスクである。エアフィルターは、防御マスクが使われる度に付け換えられる。
文書には「トラック1台分のエアフィルターが運ばれてきた」とあるが、エアフィルター1個のかさを考えると、運ばれてきた量が尋常でないことがわかる。それほど大量のエアフィルターを使用された場所や状況も、「放射能の数値が下がるまで」というくだりから容易に想像がつく。
つまり、原発事故に関連した作業(発電所内の作業なのか、周辺でのがれき処理なのか、それはうかがい知れないが)の際に使われた防御マスクの使い捨てエアフィルターを、X社がまとめて受け入れ、それを処理しているということである。
産廃業者であるX社がそうした特殊な廃棄物を処理するのは当たり前のことだとしても、問題は処理の仕方である。屋内に1カ月くらい放置し、放射線の数値が下がるまで待ってからほかのゴミと混ぜて、最終処分場に運ぶというやり方が、まっとうな処理といえるのだろうか。X社のさる関係者がこう証言した。
「エアフィルターが運び込まれたのは当社のリサイクルセンターです。ウチは都内に数カ所、リサイクルセンターを持っていますが、そのうちの一つです。そこでエアフィルターを取り扱っています」
本当に、放射能にまみれたエアフィルターを、そこで約1カ月も放置していたのだろうか。
「そうです。線量値が落ちるまでの間です。その後、別の廃棄物と混合し、パッカー車で最終処分場に持っていくのです」(同)
告発文書には続きがある。
《5月、トラック1台分のエアフィルターが運ばれてきて、屋内と野外の2カ所に分けて1週間くらい放置した。その間野外のブルーシートに覆われた方は雨ざらしになっていた。その後、数値をはかり少しずつパッカー車で最終処分場に送った》
《7月、ゴミと一緒に段ボール10個くらいのエアフィルターが運ばれてきた。数値をはかり、数値が下がる様子も見ずに、次の日にパッカー車でほかのゴミと混ぜて最終処分場に送った》
リサイクルセンターで保管する期間が短くなり、処理の仕方が徐々に杜撰になってく様子が綴られている。
リサイクルセンターで他の廃棄物と混ぜられたエアフィルターは、そこからどこへ運ばれていくのか。(後略)