B 8月15日、シャープ株の終値が169円と1974年以来、約38年ぶりの安値となったね。
C 今年3月、官民ファンド「産業革新機構」の出資要請をシャープは断り、携帯電話など電子機器を受託製造する台湾の「鴻海精密工業」との業務提携に活路を見出そうとしたんだ。ホンハイがシャープ株を1株550円で9.9%取得するという提携内容だよ。
B 結局、鴻海が難色を示したことで厄介なことになったね。
C というより、シャープが何度も下方修正したせいで、株価が急落し時価と払込価格が乖離しすぎた。鴻海が難色を示すのも無理はない。
A 結局、鴻海は払込価格を大幅に引き下げたうえで、逆に出資比率は9.9%から20%に引き上げたい意向のようだ。
B そりゃ、550円だったら660億円必要だったのが、180円の安値なら219億円で事は足りる。倍の20%に出資比率を引き上げても、まだ当初の3分の2の資金で済むんだからね。
C 残りの220億円をシャープの事業を工場ごと買う資金に回すことができるしね。でも、なぜシャープは鴻海による出資株の「払込期間」を平成24年3月31日から平成25年3月31日の長期に設定したんだろうか? もっと早い払込日にすれば、ここまでこじれなかったのに。
A 独禁法に抵触する可能性があるから、当局とのすりあわせに時間が掛かったというのが真相のようだよ。その間、鴻海は業務提携する各部門に数名の精査のスペシャリストを送り込んだらしい。メインバンクがよくやる手だけど、業務提携を口実に値踏みされたってことじゃないかな。確か山一證券もメインバンクの精査の後に潰れたという噂があった。
B 山一のメインは、「みずほ」。シャープも確か「みずほ」だよね。
C 何か引っかかるのは、今回のケースが日本長期信用銀行と酷似しているということだよ。
B 一時国有化となり、外資系ファンドに売却された後、「新生銀行」に改称して再上場となった長銀?
C そう。長銀も起死回生の再建策としてスイス銀行との業務・資本提携を発表してしばらくしてから、株が売られるようになった。
A 長銀の時は非常に悪質で、確か業務提携の具体策として、両行が投信・投資顧問子会社の長銀USBブリンソン投資顧問と証券子会社の長銀ウォーバーグ証券という合弁会社を設立したんだけど、この長銀ウォーバーグ証券を通して大量の長銀株が売りに出された。
B 合弁の証券会社から大量の売りが出たとなると、普通は「提携解消」の思惑が働くよね?
A 実はその効果を狙ってわざと、ヘッジファンドが長銀ウォーバーグ証券から売りをだしたことが後でわかった。
C それと危機を煽ったのがマスコミ。たとえば、1998年6月頃、『月刊現代』が、長銀の資金繰りの悪化や不良債権処理が難航していることを記事にしていた。
B 今回のシャープもマスコミが熱心に取り上げている。もちろん良くない意味でだけどね。
C 記者クラブ制度にどっぷり浸かった大手マスコミ記者に、企業財務を分析するだけの能力がないことは明らか。
B 誰かが、タレ込んだの?
A ちょうど8月2日、信用調査会社「東京経済」が半年ごとに開催するセミナーと時期が重なったことが、売り圧力を高めたのかも。
B 年2回の有料セミナーでは、経営に問題を抱える企業を実名で公表し、その実態を明かすとともに、「危ない企業300社リスト」まで配布するとの噂だけど、その中にシャープは入っていたの?
A 入ってなかったみたい。ただ、このリストを元に雑誌、ネットなどが騒ぎ出して、「東証1部電機メーカーで再建動向に注目も、業績の黒字化は先か」などと書くところがあったものだからシャープを連想したんじゃないかな。
C 話を戻すけど、長銀に致命的な打撃を与えたのは、98年6月末に共同通信が配信した「長銀、日債銀との合併も、政府主導で対応急ぐ」という記事だったね。
B 合併の記事なら悪材料にはならないんじゃない?
C 合併の話だけならね。この記事には尾ひれが付いていて、「政府は長銀の自主再建は困難と判断し、日債銀との合併を含む具体的な対応策を急いでいる」という文言が書かれてあったんだ。
A 結局、この情報はインチキだった。共同通信に記事を書かせたのが当時の自民党三役の一人だと言われているよ。(後略)