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それにしても2大政党のトップ(いずれも財務大臣経験者)を意のままに動かすとは、財務省は、やはり霞が関最強の官庁だ。
新人官僚は財務省に入省すると、「我ら富士山、他は並びの山」と教えられる。財務省が富士山なのは、「カネ」と「情報」を握り、そして「時間」があるからだ。
「カネ」とはいうまでもなく予算編成権のことであり、「情報」とは官邸その他に多数の出向者がいてその情報網と情報量が抜きん出ていることを指す。歴代の総理大臣は例外なく、財務省の情報網を欲しがった。
その情報網の中で最も強力なパワーを持っているのが「国税」だ。国税庁は、外局として本来は独立した存在だが、幹部はほぼ全員、財務省キャリアである。国税庁採用キャリアは中枢幹部に昇格できない。
また地方の国税局も、たとえば東京国税局調査査察部長は財務省キャリアの指定席となっている。財務省キャリアはそうしたポストを経験した後、官邸などで政治家に近いポストに就くのが慣例になっている。部長として査察部員を指揮した経験をもつ財務省キャリアは、政治家にとって実に怖い存在である。
そして「時間」。財務省の管理職が実は暇であるということは見落とされているポイントだ。予算編成期はさぞかし忙しいだろうと思われがちだが、担当者以外は、実は暇なのだ。その暇を持て余した部隊が、政治家やマスコミに説明攻勢をかけて籠絡していく。
財務省には「増税は勲章」とする「社風」がある。財務省内では、税収が上がっても、それを担当した官僚が評価されるということはない。税収は景気がよくなれば自然と上がるものであり、官僚が仕事をしたから上がるというものではないからだ。ただし「税率」を上げれば、それは優れた業績、勲章になる。
税率を上げるには税法の改正が必要で、それは本来、政治家の仕事である。つまり税率を上げることは、政治家を上手に操縦した証になる。ありもしない財政破綻を強調して「このままだと日本国債が暴落する」などと政治家に言わせた今回の消費税増税が、まさにそうだ。
法案が通過したことで、財務省は心置きなく幹部人事をおこなうことができる。勝栄二郎事務次官が退任し、後任には真砂靖主計局長が昇格。国税庁長官には古谷一之主税局長が就任する。消費税増税が成就し、お疲れ様でしたということだ。
退任した勝氏は実力次官の呼び声が高かったが、財務省はもともと軍隊のように組織で行動するので、実は個人のキャラはあまり関係がない。人事異動は頻繁におこなわれるが、財務省という組織のDNAは一向に変わらない。
人事異動は一種の免罪符にもなる。例えば今回の消費税増税。記者から厳しい質問が飛んできても増税決定当時の担当者は「いまは担当ではないのでノーコメント」と言えるし、新任担当者は「当時は担当でなかったので」と逃げることができる。
中央官庁の職員は平均して2年で1回の割合で異動がある。一部署に数年以上在籍するのがふつうの民間会社では考えれないほど短い。短期間に仕事をマスターできるのかと、国民は疑問を持つだろうが、そんなことお構いなしに頻繁に担当者が代わる。そのほうが、政治家を操りながら責任は負わないという官僚システム上、都合がいいのだ。
「近いうち解散」はいつか。永田町ではそれがいま一番の話題だ。
解散権は首相の専権事項なので、解散時期も野田首相の胸の内次第だが、消費税増税に政治生命をかける首相だけに当然、解散時期には財務省の意向が反映する。
財務省が通常、重視するのは予算編成のスケジュールだ。ただ、野田首相が不用意にも「来年度予算もつくりたい」と口を滑らし、これに谷垣自民党総裁が怒り、3党合意破棄かという騒ぎになった経緯があるので、今回は予算を理由にするのは憚られる。しかし、「近いうち解散」を占うのには格好の財務省スケジュールがある。
それは、10月9日から14日にかけて東京で開催される国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会だ。(後略)