記事(一部抜粋):2012年8月掲載

社会・文化

元経産省キャリアの「怪しい出資」

LED関連業者と蜜月の関係

 手元に「キャッシュサービスご利用明細」のコピーが2枚ある。
 1枚目にはこうある。
・お取引日 21/06/10(平成21年6月10日)
・お取引内容 振込
・お取引金額 1,200,000
・お受取人 新生銀行本店普通14××××× S・F様
・ご依頼人 ウチムラ—ヒガシ 電話番号 0902×××××××
 そして2枚目にはこうこう記されていた。
(中略)
 この記載から分かるのは、3年前の6月10日、「ウチムラ—ヒガシ」なる者が、S・F及びF・Hなる人物に、合計180万円の現金を振り込んだという事実だ。
 一見何の変哲もない振込記録である。しかし、この紙っぺらが示している事実の裏には、看過できない問題が隠されていた。
 この計180万円を振り込んだのは、ウチムラ—ヒガシという妙な名前の持ち主ではない。真の振り込み人がいる。その人物をX氏としておこう。
 そのX氏がいう。
 「まず、私が真の振り込み人であることの証拠ですが、この『ご依頼人』に刻印されている電話番号が私のものです。このように、いまでも使っています」
 X氏に促され、記者がその番号に電話をかけると、確かにX氏の携帯電話が鳴り出した。
 「私は、そこに記載されている2人の人物、つまりウチムラとヒガシから、『至急、指定の金額を振り込んでくれ』と泣きつかれ、それを実行したのです」
(中略)
「受取人のS・F氏は、あるベンチャー会社の創業者兼代表。そしてもうひとりのF・H氏は、実は経済産業省の元官僚なのです」
 ひょんなところで、意外な人物の名前が飛び出してきた。
 F・H氏。1981年に通商産業省に入省し、2006年に退官したが、大臣官房商務情報政策局担当参事官などを務めたレッキとした元キャリア官僚である。在任中は国策半導体会社「エルピーダメモリ」の立ち上げにも関与、辣腕官僚として知られた存在だった。
 そんな人物にX氏はどうして、60万円という決して少なくはない金額を送金したのか。
 X氏がいう。
 「実は、ビジネスで関係を持っているウチムラという男から、『F・H氏に自分の代わりに借財を返済して欲しい』と頼まれたのです。私自身はF・H氏と面識はありません。しかしウチムラから、F・H氏のことは詳しく聞いています。ウチムラはLED(発光ダイオード)関連の商品を扱う専門業者A社の代表で、F・H氏はその商品を管掌する経産省商務情報政策局商品情報課の課長を務めたことがある。2人はF・H氏が現役時代から昵懇の間柄でした。単に仲がいいだけでなく、F・H氏はウチムラに大金を貸してもいる。60万円の振り込みは、ウチムラが返済すべき1部を私が肩代わりしたということなのです」
 経産省のキャリア官僚が、管掌する業界の民間人と昵懇の関係になり、金銭まで貸していた。事実とすれば、国家公務員倫理規定に抵触する行為である。金銭の貸借は、どちらが借り手でどちらが貸し手であったとしても、本来なら絶対にあってはならないことなのだ。(後略)

 

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