記事(一部抜粋):2012年8月掲載

経 済

大手証券不要の時代がやってきた

【金融ジャーナリスト匿名座談会】

(前略)
B 少なくとも日本国内を考えると、かつてのような公募増資ラッシュやIPO(新規公開)ラッシュという局面は訪れない。この数年がそうだったように、公募増資もIPOも低調に推移するのは間違いない。
A 1方、銀行は超低金利が継続するなか、貸出強化のために低利のシンジケートローンを拡大し、企業の社債発行部分を食っていく可能性がある。
C つまり、証券会社や投資銀行のメシのタネが乏しくなるということだね。
A そういうこと。加えて、政策金融のウエートはこれからも高まっていく。これもまた証券ビジネスを圧迫する要因だ。
B 証券会社の引受部門で長期国債の引き受けがメインビジネスになるかといえば、現状で考える限り、国債や財投機関債の発行には巨大証券の腕前を期待しないでもいい。誰でもほしがっているからね。国債の市場消化が難しくなったら、大手証券の販売力に期待することになるかもしれないけど。
C でも国債の消化が難しくなるという事態になれば、大手証券といえども販売するのは難しいだろう。国債を最終保有するのが銀行や資産運用会社だとすれば、そちらのほうを重視したほうが国としてもベターだろう。
B 低金利・低スプレッドの時代が続くことを前提にすると、企業としては引受会社にカネを払うことも省略したい。証券会社の引受部門は不要で、コンピュータシステムさえあれば足りるという議論がいずれ出てくる。
C 1980年代の米国では、銀行の仲介機能を飛び越えるという意味でのディスインターミディエーション(金融仲介中断)が起きた。要するに、顧客は預金せずに投信を購入し、銀行を経由せずにマネーが資本市場、企業に回った。それと同じように今度は「証券会社省き」のディスインターミディエーションが起きるのではないか。
A かもしれない。そもそも大手証券や外資系投資銀行は、一般企業に比べ異常なほど給料が高い。自らは何も創造していないのに、「リスクテーカー」と称してボロ儲けしている。それを社会が許してきたことがおかしい。所詮は他人のフンドシで相撲をとっているにすぎない。まあ、我々マスコミも他人のフンドシで相撲をとっているという意味では同類かもしれないけど(笑)。
B 投資銀行は「ストラクチャードファイナンス」などと専門用語を使っているが、ほとんどコンピュータの操作で自動的に組成している。大した仕事ではない。なのにベラボーな手数料を取っている。略奪的ビジネスといっていい。
C ある大手製造業の役員たちと会合する機会があったんだが、彼らはこう言っていた。「企業買収などのM&Aに大手証券や外資系投資銀行の仲介を依頼するのは考え物だ」と。企画部門が肥大化しても、企業買収を他人任せにしないほうがいい。自分たちが直接、相手企業ときちんと話し合うべきで、それを怠けて投資銀行に依存してバカ高い仲介料を支払えば株主から文句が出る、というんだ。
A 正論だ。オリンパスの事件では「証券会社らしき企業」に著しく高い報酬を支払っていたことが問題になった。しかし常識的にみてM&Aの仲介報酬は高い。というか高過ぎる。その報酬獲得を目指して国内外の投資銀行が「あの企業はどうですか」とM&A話を企業に持ち込むケースが横行している。
B 海外企業の買収といったケースでは、企業には確かに調査の限界があるかもしれない。しかし投資銀行の仲介に依存するのは好ましくない。とにかく仲介手数料が高すぎて、コストとして軽視できない。
A M&A報酬は、現水準の半分以下でもまだ高いだろう。企業サイドが敬遠すればダンピングしてくるはずだ。
C 米国の新たな金融規制では、投資銀行のレバレッジが厳しく制限され、商業銀行とそれほど変わらないレベルへと引き下げられる。これについては「当然だろう」という意見のほうが多くなっている。
B 日本国内の証券会社をみると、中堅クラスは生き残りのために、各社それぞれ選択と集中を試みている。たとえば「いちよし証券」は、投信を顧客に長期保有させる営業を強化する1方、複雑な「仕組み債」は販売しない社内ルールをつくっている。ほかにも、株式の自己勘定トレーディングをやめた証券会社もある。それぞれの道を歩いているということだろう。
C 中堅証券は健闘していると思う。というか変わろうとしている。それに比べると、大手証券は百年一日のごとく変化の乏しい状況にある。(後略)

 

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