(前略)
結局この国は、なんでも官主導なのだ。その最たるものが「日本再生戦略」だろう。
政府は7月11日、日本再生戦略の原案を公表した。20年までに環境や医療、観光など11の戦略分野で38の重点施策を掲げ、630万人の雇用を創出すると謳っている。政府はこれを政策の目玉にする考えだ。
11分野を具体的にいえば、1.グリーン成長戦略、2.ライフ成長戦略、3.科学技術イノベーション・情報通信戦略、4.中小企業戦略、5.金融戦略、6.食農再生戦略、7.観光立国戦略、8.アジア太平洋経済戦略、9.生活・雇用戦略、10.人材育成戦略、11.国土・地域活力戦略。これはほぼ全省庁の守備範囲だ。
しかし、これだけ広範囲になると、戦略という名前がすたれてしまう。戦略には選択と集中が伴うものだが、政府のそれはあまりにも総花的で戦略の名に値しない。単に各省庁が予算獲得のために主張する「1丁目1番地」(各省庁の優先政策事項)を束ねただけのように見える。内容も明らかに各省庁の役人が書いたものである。
もちろん役人の書いたものイコール悪い政策というわけではないのだが、日本再生戦略の場合は内容が酷いので、一言指摘しておかなければならない。
例えば、1.グリーン成長戦略では、20年までの目標として「50兆円超の環境関連新規市場、140万人の環境分野の新規雇用」を謳っている。この市場規模の数字は付加価値ベースだ。環境省の地球温暖化対策にかかわる中長期ロードマップ検討会では、温室効果ガス対策のために必要な国内投資額を20年で33兆円と推計し、20年における海外需要つまり環境保全技術の輸出分を12兆円として弾いている。合計で45兆円。これだけで新市場の9割を占めるという話だ。
2.ライフ成長戦略と合わせると100兆円の付加価値ベースの増加になるが、これだけで実質経済成長率2%が達成できる計算だ。ほかのものまで足せば、実質4%の成長。各省庁の言い値をそのまま持ち寄るから、こういうおかしな全体図になってしまう。
個別でみると一見もっともらしいが全体を見ると奇妙という現象は雇用創出にもあてはまる。
人口が減少していく日本では、そもそも雇用者数はそれほど増えない。だから新規雇用を創出すると、既存の産業で雇用者が減少する。630万人の雇用が創出されるということは、600万人程度の雇用喪失が別の産業でありうることを示している。それはどのような産業なのか。政府原案には何も示されていない。というより、そんなことは分かるはずがない。
成長する産業と衰退する産業がわかるなら、旧共産圏の計画経済は失敗しない。もし本当に政府が分かるなら苦労はないのだ。
ちなみに、グリーン成長戦略は50兆円市場で新規雇用140万人。労働分配率6割として、新規雇用者の平均年収は2100万円。
「日本再生戦略」を書いた官僚はなぜ、役所をやめてそこに就職しないのか。(後略)