記事(一部抜粋):2012年7月掲載

社会・文化

法名を悪用して借金、暴力団の無法蓄財術

【ズームイン】

 過去に借金を踏み倒して、いわゆるブラックリストに載った人物が、白昼堂々カネを借り、それを踏み倒して、またカネを借り――。これを延々と繰り返してカネを集める手口が、いま密かに注目を集めている。
 「ネタを明かせば、なんだ、と思うかもしれませんが、要は、単立と呼ばれる宗教法人を使ってカネを借りまくるのです。これをやっている連中は暴力団関係者が多いが、堅気の多重債務者の間にも浸透していくでしょう。いずれにしたって金融機関はたまったものじゃない」
 こう語るのは、とあるベテランの司法書士である。
 単立の宗教法人とは、本山や本寺にぶら下がっていない寺社のことをいう。たとえば寺の場合、○○宗、××山といった宗派や山号を掲げており、それらの寺はその宗派の末寺と思われがちだが、そうでない場合も多いのだという。
 「宗派を掲げていても、その寺自体が本寺というケースが実は多いのです。むろん、それぞれの自治体(宗務課)には、本寺、宗教法人として届け出をしている。そういう単立の宗教法人が、一般には見えない『市場』で頻繁に売買されているのです」(同)
 売買価格は500万円から2000万円といったあたり。立地や建立物、墓地といった目に見える資産だけでなく、檀家の構成、由緒といった条件にも左右されるという。
 「いまのご時世、寺社の経営は難しいらしく、出物は意外に多いのです」(同)
 暴力団は、こうして売りに出た単立の宗教法人を買い上げると、さっそく仕事にとりかかる。
 「まず、宗教法人を手に入れた組幹部は、その宗教法人の代表、寺の場合なら住職になります。そこで法名を得る。この法名というのが、実は最大のツールなのです」
 司法書士は一例として、川崎隆道(仮名)という人物が2年前、千葉県にある無常山竜安寺(同)を770万円で購入、名前を川崎覚道(同)に変えたケースをあげた。
 「法名を得た代表は、複数の人間、たとえば子分たちに得度(僧侶になるための出家の儀式)を施します。その数は多ければ多いほどいい。こうして得度を施された連中も晴れて法名を得る。この法名は、そのまま戸籍に転載されます。すなわち子分たちも名実ともに僧侶となり、戸籍も変わってしまうのです。ここまで話せば、もうお分かりでしょう」(後略)

 

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