(前略)
いま真剣に検討すべきは、需要抑制策だ。需要抑制というと、すぐ、産業に悪影響を及ぼす、生活が不便になるといった批判が起きるが、賢いやり方はある。
例えば、八田達夫・学習院大特別客員教授が提唱している「調整電力入札制度」。これは、他国で相当程度導入されている仕組みで、電力が足りなくなる可能性のあるピーク時間帯に、電気を止めることに対する対価を前日に大口需要者側が入札、実際に電気が止まった場合には入札で確定した料金を受け取るというもの。これを実施すれば、電気が止まったら本当に困る事業者に迷惑をかけることなく、「この際休みにしてしまっても構わない」という事業者へのインセンティブを付与することができる。
ピーク時間の需要抑制に対して報奨金を支払うデマンドレスポンス取引のほかに、ピークを抑制するための料金体系を新たに構築するという方策もある。
こうした工夫で需要を抑制できれば、揚水発電の供給力アップにも直結する。同じ量を貯めた状態でも、揚水発電に頼る時間数が減れば、その分だけ単位時間あたりの供給力はアップするからだ。
一方の供給面では、自家発電の余剰電力の買い取りの余地が多分に残されている。こうした需給両面での方策を敢えて見逃し、いたずらに「供給不足」を唱えるだけでは、国民から再稼働への理解は得られない。
橋下市長が突きつけた八条件のなかに「100km圏の自治体の住民同意と安全協定締結」があるが、これは地方分権を進めるうえでも当然の条件だ。関西各府県で原発稼働の是非を決めるとなれば、政府の決定に不満をもつ各自治体、受益者である電力消費地、地元のおおい町とのあいだで徹底した話し合いがおこなわれるはず。もちろん地方分権となれば、電源三法交付金などの利権も地方に譲渡されることになるが、そのほうが政府としても余計な仕事をしないで済むだろう。
政府は5月12日、電力不足に備えて関電や九州電力関電に「計画停電の準備」を要請した。現実に、計画停電くらいはやりかねないという一抹の不安がある。
民主党政権は橋下市長に倒閣宣言をされ、苦しくなった。絶好の切り返し手であるはずの「地方分権」も、いまとなっては打ち出せないだろう。
しかし、今国会会期末から夏にかけて総選挙がおこなわれる場合(現段階でその可能性はなきにしもあらず)、その最中に計画停電を実施すれば、原発再稼働反対を唱える橋下市長に大打撃を与えることができる。(後略)