記事(一部抜粋):2012年5月掲載

連 載

【平成考現学】小後 遊二

被爆恐怖症

 福島第1原発事故後、世界中に放射線恐怖症が広がった。被爆国の日本には放射線が人体に与える影響に関するデータは豊富にある。しかし今回の原発事故ではそれが有効に使われていない。
 放射能の特長は3つに分類できる。(1)瞬時かつ直接のダメージがある、(2)長時間経ってから影響が出る、(3)子孫に影響が出る、である。
 広島、長崎では(1)が主として問題となった。その後(2)に関しては被爆者手帳を交付して治療や心のケアなどをおこなったが、この部分のデータが一般にすぐ使える状態になっていない。(3)はショウジョウバエ等では研究されているが、人間に対する影響については十分なデータは得られていない。
 チェルノブイリは(1)で、33人犠牲者を出したとされるが、その実数は定かではない。当時のソ連は情報が非公開で、作業中に強い放射能を浴びた人々が各地に散らばり、結局どの程度の死者が出たのか、把握できなかった。調査によっては死者数に10倍以上の開きがある。
 (2)も数字が大きく開いている。当初欧州の学者は4000人という数字を使っていたが、その後4万人となり、グリーンピースなどは100万人近い、とする。
 チェルノブイリの10分の1くらいの放射能をばらまいた、とされる福島第1の場合、いまのところ(1)による死者はゼロだ。チェルノブイリのように原子炉に飛び込みバルブを閉めたり、消化作業にあたるなど無理な作業をしなかった、線量計をつけて作業員の交代を比較的きちんとやった、などの成果が出たものと思われる。
 問題は(2)である。チェルノブイリの場合、25年経ったいまでも当時5歳以下だった女性に、非常に高い率で甲状腺ガンや乳ガンが発生していると言われている。その範囲はウクライナやベラルーシの200km圏にまで広がっている。福島の場合もホットスポットが多く見られる飯館村等では、今後30年以上にわたる注意深い観察、治療が必要になると思われる。
 日本における原発、放射線アレルギーは理解を超え、「異常」な状況に陥っている。
 まず食料品などに付着したとみられるセシウムの許容値を300msから100msに下げた。これで出荷できなくなる野菜や椎茸などは飛躍的にふえるだろう。しかし、この閾値を下げた根拠は不明だ。徐染問題でも閾値はどんどん下がり、徐染費用が鰻登りに上昇している。こうなると巨大な徐染産業が勃興し、ホットスポットを見つけては予算をぶん取る(かっての砂防ダムのような)利権化が起こる。利権の強い味方は乳飲み子を抱えた母親であり、校庭で遊べない子どもがかわいそうと騒ぐ親のインタビューを得意とするNHKだ。(後略)

 

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