(前略)
率直にいって地方分権は難しい。国と地方の行政・財政が複雑に絡み合っているのをほぐす作業であり、複雑な連立方程式を解くようなものだからだ。ただし基本原則は単純。3ゲン(権限、人間、財源)を国から地方に移すということだ。
地方分権が実現されると住民にはどんなメリットがあるのか。経済学では、オーツの分権化理論やティボーの「足による投票」などによって理論的に示されている。一言でいえば「中央政府よりも身近な地方政府のほうが住民のニーズを上手に汲み取れる」ということだ。
また、1つの愚かな中央政府が政策を決めるより、複数の地方政府が複数の政策をとり、そのなかでベストな政策を他の地方政府がマネするほうがよりよい政策になるということだ。
しかし、地方分権を主張すると必ず、「地方公務員は国家公務員に比べて出来が悪い」という意見が出てくる。この意見は国家公務員の意を受けた者から発せられることが多く、そもそも疑わしい。しかし、それが本当だとしても、3ゲンが国から地方に移るのだから、出来のいい国家公務員が地方公務員として働けばいい話だ。
では、地方分権のために3ゲンをどのくらい地方に移せばいいのか。おおざっぱにいって20万人の人間、20兆円程度の財源、それに応じた権限ということになろうか。当然、消費税も地方に移譲するという話にならざるを得ない。
しかし民主党も自民党も、消費税を国税として固定化することに固執しており、みんなの党や橋下徹大阪市長が主張する消費税の地方税化には否定的だ。
4月11日の党首討論で、野田佳彦首相は消費税の地方移管について「荒唐無稽なアジテーション」と発言し、図らずも、自身の中央集権志向を明らかにしてしまった。
そもそも消費税は応益税であり、しかも安定財源なので、基礎的サービスを提供する地方にふさわしい。実際、地方分権の進んでいる国では消費税は地方の一般財源になっているところが多い。
橋下市長はお得意のツィッターで、消費税の地方移管をこう強く主張している。
「地方分権を進める。国のかたちを変える。そのためには地方の税源を整備する必要がある。消費税こそ地方税にすべき税源だ。国のかたち論、地方分権論の本質をしっかりと理解すれば、国税のかたちで消費税を上げろ! という主張にはならない。消費税は地方に移譲すべきという議論になる」
「民主党も自民党も現行の統治機構のままでの増税。大阪維新の会は消費税の地方税化、地方交付税の廃止。増税するなら地方が判断。今の制度のままで消費税をアップしようもんなら後からの変更など効かなくなる。年金も結局若者にしわ寄せのまま。今こそ統治機構を変える方向性を決めなければならない」
これは、大阪維新の会による、民主党と自民党に対する宣戦布告とみることができる。実際、ある自民党の閣僚経験者は、こういって頭を抱えていた。
「困ったなあ。こっちはもう消費税で方向転換できない。これで選挙を仕掛けられたらたまらない」
橋下市長は、地方分権・道州制を前提に、消費税を地方へ移す代わりに、地方交付税は要らないという論法をとっている。
これに対し、たとえば林芳正・自民党政調会長代理は「地方に消費税を任せると、地方自治体の間で税率の引き下げ競争になる」「地方ごとにバラバラの税率になれば住民も行政も混乱する」と反対している。
要するに価格競争は困るというわけだ。もっともらしい主張だが、考えてみればおかしな話だ。
住民からすれば、そもそも値下げ競争は歓迎のはず。しかも、競争があるからといって価格がゼロになるわけでない。地方によってモノの値段が多少違ったとしても(現状でも地域差はある)、経済に大きな混乱はないだろう。地方自治体が切磋琢磨すれば、税率は自ずと似たような水準になるはずだ。
消費税を地方に移し地方交付税をなくすと、地方自治体間の格差が広がり、一部地方の切り捨てにつながるという批判もある。しかし、それには「地方間の財政調整制度」という答えがある。国が国税として地方から吸い上げそれを地方に回している分を、地方のなかで回せばいいのだ。
いずれにしても、消費税は地方の一般財源というのが世界の常識である。世界を見渡せば、日本が直面している諸問題への対応策が見つかる。しかし、民主党も自民党も霞が関官僚も、消費税の地方税化は容認できないらしい。
地方分権のもう1つの試金石となるのが、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働問題だ。
現状では再稼働の適否を決める権限は経済産業大臣にある。しかも、総理大臣、官房長官、環境大臣を含めた4大臣会合という奇妙な連帯責任体制で決められる。(後略)