(前略)
B ところでAIJ投資顧問問題で証券取引等監視委員会が強制調査に入ったね。
A 「なぜ今頃?」って感がある。監視委が今年1月下旬から検査して、初めて発覚したというんだけど、監視委の総務課長だった佐々木清隆は〇八年頃から、ことあるごとに講演会でケイマン諸島を使ったファイナンスやファンドに警鐘を鳴らしていた。
B 早くから警告してたの?
C 講演では「英領バージン諸島を使ったものは八割方、不公正ファイナンス。『P.O.BOX 957 Tortola BVI』という私書箱を住所に使っている場合は120%怪しい」と警告していたようだよ。要はバージン諸島やケイマン諸島など、本人確認が非常に緩く、関係者が開示されないタックス・ヘイブンを使っているところはほとんどインチキだと指摘していた。
B まさにオリンパスであり、AIJだったってことになるね。
A その佐々木は現在、金融庁検査局の審議官。今回、指摘していたことが現実となり忸怩たる思いがあるのかどうかはわからないけど、「徹底的にバージン諸島やケイマン諸島を使ったファイナンスやファンドを洗え!」と号令を出したという噂が出てるよ。
B どんなところがあるの?
C 佐々木が例として挙げた「BVI(ブリティッシュ・バージンアイスランドの略)」だけでも、数えきれないくらいある。経営不振企業が起死回生の策として講じた私募型MSCB(ムービィング・ストライク・シービー)のほとんどが、このBVIを利用していた。
B 当欄でもMSCBの問題については何度も取り上げたけど、当時、当局は全くメスを入れようとしなかった。
C 官僚は民事には原則、介入しない。それで公募増資ではなく私募型増資が法の抜け穴になった。
A その私募型増資だけど、大物アレンジャーのAが逮捕されるという噂が飛び交っているけど。
B Aって大物仕手筋だった西田晴夫や高橋グループ(高橋治則)との関係も取り沙汰されていたね。
C 最近ではAとのつながりが噂されたABCホームの塩田大介や金融ブローカーの永本壹柱までもが逮捕されている。永本は直接事件には関与せず、金主として登場するだけで金融ブローカーを手駒のように操っていたと言われている。それだけに監視委や警視庁が逮捕に持って行くのは難しいと見られていたからね。
A それは監視委の委員長が元福岡高検検事長の佐渡賢一だからできたことだよ。佐渡は市場を歪める違法増資や粉飾(飛ばし)を許さない構えだという。
B とても不可解なのは、AIJにまたもやオリンパスと同じ野村証券出身者が絡んでいたことだよ。AIJの経営陣はすべて野村の元社員だったどころか、取締役の松木新平は野村の株式担当常務で、小池隆一の総会屋事件で逮捕された人物だ。
C それに23の企業から企業年金として預かっていた2100億円のほとんどを消失させたくせに、AIJはタレントの清水国明の会社「ワークショップリゾート」(山梨県富士河口湖町)に2億円以上出資していた。この会社にはAIJの浅井和彦社長の親族が社外取締役となっている。
A 清水国明といえば、東日本大震災の支援活動のために財団法人「東京コミュニティ財団」を通じて募金を募ったり、自身が絡んだ会社で放射能を除去するという「イオリー水」という浄水器を販売している御仁。
B 実姉の橋本真由美はパート従業員から、ブックオフコーポレーションの社長、会長となって話題となった人物だね。07年5月に発覚したグループぐるみの不正会計問題では、常務時代に架空売り上げの計上を黙認したとして、代表取締役を辞任した。それはともかく、当局の徹底的な投資顧問の調査や、タックス・ヘイブンをかました私募増資にメスを入れることで、マーケットはどうなるのだろうか?
C もし、AIJ以外にも年金運用が失敗しているところが発覚すると、AIJなどに年金運用を委託していた建設業界などから連鎖倒産が出る可能性があるよ。
A 積立金に損失が出た場合、加入企業が穴埋めするか、あるいは保険料を引き上げて給付額を減らすかのいずれかしかない。基金の解散もできないことはないが、国から借りている厚生年金の資金の返済が前提となり、企業年金も受け取れなくなる。Cさんの言うように「代行割れ」による連鎖倒産を招く危険はあるかもしれないね。(後略)