こそこそと正体を隠そうとする者を信用するのは難しい。
正体を隠しての募金活動、勧誘等々、隠すのは怪しげなものの証拠と言っても差し支えないだろう。 しかし、中にはなにゆえ名を隠さねばならないのか理解に苦しむものもある。たとえば官舎である。
東京近辺なら、以前は「大蔵省関東財務局」と管理者を明らかにした看板が立っていたから、ひと目で官舎とわかったものだ。だが、近年、管理者の名が塗りつぶされているものがいくつも見受けられる。
近所の人など、塗りつぶされる前を見ている人にとってはなんの意味もないことだ。だいいち地図には出ているのだから隠しようがないのだが。
これはいったいどういうわけか?
さっそく管理者に質問してみた。質問の趣旨は、「いつ、誰の指示で、どのような目的で消したのか?」だ。すると、次のような回答。
「たまたま通りかかった方などが、興味本位で立ち入られる可能性があるということです。時期はいつごろからなのかはよくわからない。最近では、(名前を消した状態でなく)住宅管理者と表示しているケースもあります」(財務省関東財務局宿舎統括課)
消した理由、はじまった時期とも、はっきりとしたものではないということらしい。これは妙だ。
民間企業において、恥ずかしいから社宅の看板をはずしてくれなどとは、よほどの事情がなければ口が裂けても言えないことだ。もし言い出す人がいれば、「そういう人はお辞めになったらよろしい」となるのが落ちである。
原発事故以降、当事者である電力会社の社宅周辺でよく似た事例が生じているとも伝わるが、それは日本中を揺るがし、世界に影響を与える事故であったがゆえである。それとも日本の公務員は、年中そのようなことを引き起こしているとでも言うのだろうか。
また、どうしても官舎に住みたくない人には、出て行く自由だってある。歓迎されこそすれ、引きとめる人はおるまい。
(後略)