(前略)
民主党の年金制度改革は、「社会保障と税の一体改革」と謳われているように、消費税増税とセットになっており、いまや消費税増税は既定路線になりつつある。ここに至るまでには、もちろん、財務省官僚たちの巧妙な世論誘導工作があった。
鳩山由起夫元首相は政権交代時、消費税増税はしないと言い切ったが、その鳩山氏は自身の「子ども手当問題」(贈与税脱税)でスキャンダルにまみれ、「普天間問題」(外務・防衛官僚のサボタージュ)で辞任を余儀なくされた。この失脚劇のシナリオを描いたのは、財務省といわれている。
鳩山氏に代わって首相になった菅直人氏が突如「消費税増税」を口にしたのも、むろん財務省の根回しによる(震災・原発で長居されたのはちょっとした誤算だったが)。この間、民主党内に増税やむなしの世論が形成されるよう動いたのが、財務省が送り込んだ与謝野馨氏だった。
その与謝野氏は、民主党のマニフェストにあった「最低保障年金」の棚上げに動く。最低保障年金は、保険料を納めない者に対しても七万円の年金を払うというもので、自民党の受けがよくない。そこで、消費税率10%を自民党が飲みやすくなるように、最低保障年金の議論を事実上封印。結果、消費税増税だけで名ばかりの「社会保障と税の一体改革」素案ができあがった。
そこで満を持して登場したのが、野田佳彦首相である。野田氏は1月の内閣改造で、「増税原理主義者」の岡田氏を副総理に起用することで、盤石の増税路線を敷いた、はずであった。ところが、その岡田氏が愚かにも、公明党のジャブ(「最低保障年金が、税と社会保障の一体改革に含まれていないではないか」という追及)に、まともに応じてしまったのだ。
民主党の当初のマニフェストでは、最低保障年金に関連する法律は「2013年までに成立」となっていた。しかし先の一体改革素案では「2013年までに法案を国会提出」と先延ばし(封印)された。したがって、公明党のジャブに対しては「最低保障年金の法制化については消費税増税後に検討します」と答えておくのが模範解答だった。
ところが岡田氏は、調子に乗って「封印」を解いてしまった。すなわち、最低保障年金の見直しと、さらなる消費税増税(税率を10%からさらに引き上げる)に言及してしまった。岡田氏が原理主義者であることが、逆に災い(財務省にとって)になったのだ。
岡田氏は副総理に就任後、官邸五階の副総理室に陣取って、「報告は総理にあげる前にすべて俺を通せ」と、官邸の主のように振る舞っている。
通常、閣僚に各省から派遣される秘書官は一名だが、いくつもの職務を兼務している岡田副総理には数名ついている。複数つくのは、総理以外では内閣の要である官房長官しかいない。まさに副総理にふさわしい重量級の布陣だ。岡田氏は自分が実質的な首相になったつもりで官邸を仕切っていた。その「過信」もあったのだろう。
「試算」は、国会では格好の審議材料だ。手間も時間もかかる仕事なので、法案を止めたい野党は必ず要求してくる。
政治家にとって試算は鬼門だ。中身がわかりにくいうえ、もし致命的な誤りがあれば、法案の即死につながる。予算書の数字に致命的な誤りがあると予算審議が吹っ飛ぶのと同じだ。(後略)