記事(一部抜粋):2012年2月掲載

連 載

【狙われるシルバー世代】山岡 俊介

「未公開株詐欺」被害者が再び狙われる悪質な手口

(前略)
 これまでの未株屋の代表的な手口は、たとえばA株という未公開株が近く上場し、株価が何倍にもなるとターゲットに信じ込ませるために、未株屋グループの別の仲間が「A株をお持ちでないですか。お持ちでしたらぜひ高値で買い取らせてください」と電話をかけるというものだった。
 A株が儲かるという話(もちろん虚偽)を、無関係を装った複数の未株屋がターゲットに吹き込むことで、儲け話に信憑性を持たせるわけだ。
 また、すでに未公開株を購入し、換金できずに持ち続けている被害者には、「お持ちの株を高値で買い取りますので、まずは買い取り手数料を振り込んでください」などと持ちかけ、その手数料をまんまと騙し取るというのも、ポピュラーな手口だった。
 これに対し、最近流行っているのが「お手持ちの未公開株を、上場企業の株と交換しませんか?」と電話で勧誘する手口だという。
 周知のように、未公開株は市場で流通しているわけではないので値段などはあってないもの。しかも詐欺グループが扱う未公開株はまともな会社のものではないから、無価値に等しく換金性はかぎりなくゼロに近い。
 これに対し、上場株は市場で取り引きされるため換金できる。すなわち価値がある。
 未公開株を売るに売れずに持ち続けている被害者にすれば、「上場株との交換」は願ってもない話である。
 もっとも、当然これには裏がある。
 ある元未株屋が解説する。
 「そこで交換されるのは、上場株といっても上場廃止寸前の危ない会社の株、1株せいぜい数円のボロ株です」
 有り体にいえば、上場株といっても仕手戦でシコッたものなどワケありのものばかりで、未公開株同様、無価値に近い。だから、惜しげもなく交換できるというのだ。
 この「上場株との交換」は、未株屋にとって一種のリスクヘッジである。
 未株屋のなかには、未公開株の購入者から「必ず上場すると言ったじゃないか!」「騙したな。訴えるぞ!」とクレームをつけられている者が少なくない。もし本当に訴えられたら、罪に問われる可能性がある。
 しかし「腐っても上場企業」の株と交換すれば、非難をかわすことができるし、なにより事件化を阻止することができる。
 しかし、上場株とただ交換するだけでは、仕手筋にメリットはないし、未株屋のメリットも大きくない。
 そこで、ターゲットの高齢者に対し、「価値のない未公開株が、価値ある上場企業株になったこの際だから」という理屈で、「危ない上場企業株」を別途数百万円も買わせるのが鉄則だという。
 具体的なケースを見てみよう。
 高齢者のAさんは、未株屋Bから、ある未公開株を300万円で購入、換金できずにそのまま持ち続けていた。
 そこで、未株屋Bと連携する仕手筋CがAさんに電話をかける。
 「お持ちの未公開株を、大証2部上場の建築総合コンサルタント、塩見ホールディングスの株と交換しませんか」
 塩見ホールディングスは昨年11月に上場廃止となった会社で、Aさんが話を持ちかけられた時点ではまだ上場を維持していたものの、倒産説が流れるほど経営状態は悪化していた。しかし、そうした情報に疎いAさんは、新聞の株式欄に同社株が載っているのを見せられただけで、有頂天になった。
 そこで仕手筋Cが畳み込む。
 「塩見の株にはいい材料があって、近く2倍、3倍に高騰します。これまでの損を取り戻すだけでなく、この際なので儲けましょう!」
 結局Aさんは、塩見株を新たに500万円分購入した。しかしその後、塩見は上場廃止になり、Aさんの持っていた株は紙くずになった。(後略)

 

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