(前略)
年も押し詰まった昨年12月27日、民主党衆院議員の辻恵が司法クラブの記者を相手に会見を開いた。全国紙記者が言う。
「その会見は、直前に時事通信が配信した記事に反論するために開いたものです。東京地検特捜部への批判に終始していました」
時事が配信したのは「民主・辻議員に資金トラブル=弁護士業務めぐり訴訟——周辺関係者を聴取・東京地検」というタイトルの記事。辻が関わった東京・六本木のTSK跡地の処分をめぐる訴訟トラブル(本誌昨年11月号「『富士薬品マネー』に検察は切り込めるか」で既報)に特捜部が関心を抱き、関係者から事情を聴いているという内容だ。
やや長くなるが同記事を引用する。
《民主党の辻恵衆院議員(63歳・大阪17区)が弁護士として行った業務をめぐって、資金トラブルが起き、訴訟に発展していることが27日、分かった。融資金を回収できなくなった大阪市の会社が、「担保を確保できるという辻氏の説明にだまされた」として、約1億9000万円の賠償を求め東京地裁に提訴。(中略)東京地検特捜部も、トラブルをめぐる資金の流れに関心を示しており、周辺関係者から事情を聴くなど、慎重に解明を進めているもようだ。(中略)原告側の訴訟資料によると、辻氏は2007年、都内の不動産会社(編集部注・東洋不動産)の代理人として、東京・六本木のビル(同・TSKビル)に関する仮処分を申請した際に、5億2620万円を法務局に供託した。原告の貸しビル会社「永和実業」(大阪市)と辻氏は08年8月、この供託金の払い戻しを受ける権利を担保とする契約を締結。永和側はこれを受け、09年9月までに計1億6400万円を、辻氏が代理人の不動産会社に融資した。供託金の払い戻し権を確実な担保とするには、担保設定したことを法務局に通知する必要があったが、辻氏は通知しなかった。一方、辻氏は09年5月、供託金を出した医薬品会社(同・富士薬品)から返還を求める訴訟を起こされ、同年11月、永和実業に無断で、供託金払い戻し権をこの医薬品会社に譲渡して和解。このため永和側は担保を失い融資を回収できなくなり、利息を含む融資金の賠償を求め、同12月に辻氏を提訴した……》
(中略)
そもそも、TSKビルの転売禁止の仮処分を申請したのは、事件物件に強いといわれる東洋不動産で、同社の委任を受けて手続きを進めたのが辻である。資金の出所は、配置薬販売大手の富士薬品。富士薬品がこのときに用意した資金は6億円だった。
実際に積まれた供託金(5億2620万円)との差額は7380万円。辻は、その7380万円の中から3000万円を受け取り、そこから手続費用480万円を差し引いた残りの3900万円を、依頼人である東洋不動産に振り込んだという。
5億2620万円の供託は辻の名義でおこなわれたが、その後、不可解なことが起きる。その「名義」(供託金の請求権)が辻から暴力団関係者に譲渡され、さらにOという男に転売されてしまったのだ。この請求権譲渡について、辻は「手続き書類が偽造されたため」と主張、警視庁にSという人物を告訴した。
ところが前述の09年11月2日付『産経新聞』が、その事実を報じると、猛烈なスピードで供託金払い戻し手続きを進め、最終的には金主である富士薬品に全額返還した。
辻はそもそも、供託金の名義(請求権)が自分の知らないあいだに第三者に変更されていた、つまり騙し取られたとして、それに関わったSを刑事告訴した。その敵対関係にあるはずのSから、スムーズに請求権を取り返すことができたのはなぜか。また、辻はSに対する刑事告訴をほどなく取り下げているが、それはどんな理由からだったのか。
(中略)
ところで、供託金の請求権をSから譲渡されたOという男に関して昨年末、「家宅捜索を受け、その際10億円単位のカネを保有していた事実が判明した」という情報が流れた。さる事情通によると、Oがこれほど巨額のカネを蓄えた経緯について、関係当局が強い関心を持っているという。
「Oは、法務局の登記官などでは太刀打ちできない不動産登記のプロ。債務者がいよいよ追い詰められて失踪しそうだという情報を得ると、Oはすぐに債務者と会って所有不動産を激安の価格で買い取り、登記に必要な書類を受け取る。債務者はOが現金をちらつかせるため、結局は言い値で書類一式を渡してしまう。Oがそうやって取得した土地が東京都内や神奈川県内には数多くある。もっとも、所有権の移転登記はしないので、登記上はO名義ではない」
Oはその土地で駐車場を運営し、毎日、自ら集金して回っているという。10億円単位の蓄えをつくったノウハウとは、要するに巧妙な脱税。法律の不備と関係当局の怠慢をうまく突いて蓄財しているのだ。
だが、家宅捜索で巨額の「たまり」が発見されたという情報が事実なら、Oはいずれ、しかるべき刑事罰を受けなければならない。その際には、むろん、辻が電光石火で供託金の返還請求手続きを進めた経緯についても追及されるだろう。(後略)