記事(一部抜粋):2012年2月掲載

社会・文化

「助成金」を餌に無法なカネ集め

自民党有力政治家の元秘書も関与か?

 民主党が掲げる政策の重要な柱に「雇用対策」がある。当然ながら、この重要政策のために予算が組まれ、日々費消されている。昨年四月に施行された「建設業新分野教育訓練助成金」という制度もその一つ。
(中略)
 もっとも、対象が中小の建設業者に絞られているためか、この制度、一般にはあまり知られていない。また、厚労省のある幹部も「政権党のマニフェストに合致する政策としてつくったもの。要するに民主党のアリバイづくりの施策」と明かすように、積極的にアピールされていないのが実情のようだ。
 ところが、あまり知られていないのをいいこと、この助成金制度を悪用、濡れ手に粟の荒稼ぎをしている連中がいる。
(中略)
 都内城北地区で設備機器の施行販売を手がけるK工業の社長、X氏が言う。
 「T氏には、古くからの取引先の紹介で会いました。見た目は立派な紳士です。紹介者が信頼できる人だったので会いましたが、後で聞いたら、紹介者もT氏のことはあまりよく知らないということでした」
 X氏がT氏と初めて会ったのは、2011年の夏。T氏はそのころ、中小建設会社の代表者に精力的に会っていた。その一環としてX氏にも声がかかったらしい。T氏の名刺には、先のNPO法人Zと株式会社Iの名が刷り込まれていた。
 T氏は初対面のX氏にこう言ったという。
「長引く不況や公共工事の減少で困っている建設業者の皆さんに、願ってもないチャンスと実利が得られる話があるんですよ」
 聞けば、T氏の話は確かにオイシイ内容だった。
 建設業新分野教育訓練助成金という新しい制度ができた。これは新分野に進出しようとする土建業者に、教育訓練費を潤沢に出してくれるものである。新分野はなんでもいいが、厚労省が例として挙げているのは「介護関係」。つまり、介護事業に進出する土建屋を国は支援してくれる——そんな説明の後、T氏はこう語ったという。
「私は、その介護の教育を専門としているNPO法人Zの代表です。Zの傘下には、有限会社Sというさらにきめ細やかな教育をおこなう介護専門の人材派遣会社がある。そして株式会社Iは、より早く助成金をもらえるようアドバイスとお手伝いをしている会社です」
 まるで、国の意を受けた代理人であるといわんばかりに、「助成金のことなら任せてくれ」と語るT氏を、X氏はすっかり信じ込んでしまったという。無理もない。このとき見せられた助成金のパンフレットには、こんな文言が記されていたのだ。
《助成金の支給額 教育訓練に要した経費の3分の2(1日あたり20万円。60日限度)。訓練を受講された労働者1人につき日額7000円(60日限度)。これらを支給する》
 T氏はX氏にこう言ったという。
「あなたのところの社員10人をウチのNPO法人とS社に登録すれば、直ちにI社のほうで手続きを進めます」
 そして具体的な助成金の金額をこう弾き出したという。
 教育訓練期間の上限である60日、経費も上限の20万円として1200万円。これに労働者1人あたり日額7000円×10人×60日で420万円。都合1620万円——。
 「助成金を利用するとはこういうものなのか、と目が覚める思いでした」(X氏)
 これまで助成金などもらったことのないX氏、T氏の口上を全面的に信頼し、その場で「登録」したという。(後略)

 

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