記事(一部抜粋):2012年1月掲載

社会・文化

東京電力「謝り隊」の過酷な任務

【ズームイン】

(前略)
 3月11日の事故発生から9カ月余り。「一応の収束」は関係者の必死の努力の賜だが、放射能への不安が消えたわけではむろんなく、収束宣言は早急すぎると批判する専門家は少なくない。そうしたなか、東京電力の社員たちは、日夜、被災住民への謝罪・賠償交渉にかけずり回っている。
 「総勢7000人の人員を動員、被災者宅を訪問して、賠償のほか様々な相談事や話し合いをしています。ただ被災地域が広範囲に及んでいるため、なかなか追いつかないのが現状です」(東電関係者)
 こうした現地派遣部隊のなかに、俗称『謝り隊』というチームがある。
 「その名の通り、被災者に謝罪することを第一に考えて組まれた専門チームだそうです。正式には『地域支援グループ』というそうで、彼らは一軒々々丹念に被災者のもとを訪れては、ひたすら謝る。被災者の気持ちはいまだに癒やされていません。謝罪は当然のこととはいえ、謝り隊の任務は、傍目からみてもかなり過酷です」(社会部記者)。
 東電は、2011年に日本で最も非難を浴びた企業である。それだけ甚大な被害を日本中、とくに原発周辺の住民に及ぼしたのだから当然だが、前出記者は「大きな声ではいえないが、謝り隊に対する住民の言動にも行き過ぎの面がある」という。
 「『謝り隊』に雁首揃えさせておいて、『やい、一斉に土下座しろ』と恫喝するのは当たり前。『おまえのような下っ端では話にならん。社長に謝りに来させろ。社長が来ないうちは話し合いには応じない』とまくしたてられるのも日常茶飯事。胸ぐらをつかまれたり、なかには背中に跳び蹴りをされた社員もいる。それでも彼らはじっと我慢して、ひたすら謝るのです」
 こんな仕打ちが日々くり返されているというから気の毒としかいいようがないが、最近、こんな極め付きの出来事があったという。
 「謝り隊がある被災者のもとを訪れたとき、その被災者が、こう言ったそうです。『通り一遍の謝罪をされても、はいそうですかと納得できるわけがない。誠意を示すというなら、そこに被爆した牛の糞がある、それに顔つけて、牛にもちゃんと謝れ』」(後略)

 

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