記事(一部抜粋):2012年1月掲載

政 治

税の不公平を正せば消費増税は必要ない 歳入庁さえできれば大方解決

【霞が関コンフィデンシャル】

(前略)
 消費税引き上げありきで進む改革論議に異義を唱える識者は少なくない。たとえば鈴木亘・学習院大学教授は、「そもそも国民は『給付増・負担増』を望んでいるのか」と疑問符をつきつける。「給付増・負担増」と「給付減・負担減」のどちらを国民は本当に望んでいるのか、それを把握すべきというわけだ。
 「保険料引き上げを議論の出発点にすべきで、社会保険への消費税投入を前提とするのは間違っている。消費税を社会保障目的税にすると恒久増税となってしまう。景気悪化が懸念され、税収減となれば財政再建も難しくなる。社会保障目的税としては消費税より相続税のほうが望ましい」(鈴木教授)
 また、消費税を五%程度引き上げるだけで社会保障財政が維持可能になるのかという、そもそもの疑問についても、同教授は「高コスト体質、供給側のサービスの質的低さが温存され、歳出削減・効率化は進まない。むしろ悪化する可能性が高い」と手厳しい。
 元財務省官僚で小泉・安倍政権で改革の司令塔を務めた高橋洋一・嘉悦大教授に至っては、「消費税の社会保障目的税化はとんでもない愚策だ」とメッタ切りだ。高橋教授は「消費税の社会保障目的税化は世界的にもまず例がない」として、1政治論、2社会保障論、3租税論の各観点から問題点を次のように指摘する。
 1、政治論からみると、政権交代時の約束(民主党マニフェスト)に書かれていない消費税増税をおこない、書かれていた歳入庁、すなわち日本年金機構と国税庁の統合をおこなわないのは問題だ。
 2、社会保障は保険方式で給付と負担を見えやすくしている。そこに目的税を投入すると、過剰な社会保障需要や税金目当ての搾取を生み、ますます社会保障費を増大させる。日本を含め世界には、給付と負担の関係が明確な社会保険方式で運営されている国が多い。保険料を払えない低所得者に対しては税が投入されているが、日本のように、社会保険方式といいながら、税金が半分近く投入されている国はまずない。このように税の投入が多いと、給付と負担が不明確になって、社会保障費はドンドン膨らむ。その一部は業界の利益になって社会保障の効果を薄める。一例をあげれば、特別養護老人ホームの内部留保が1施設当たり3億円(収入1一年分)、業界全体で2兆円と過大になっている。これは税投入が末端に行き届かず、中間業者の懐を潤し、結果として社会保障費の増大につながっている典型例だ。
 3、消費税は安定財源なので、地方の一般財源になっている国が多い。消費税を社会保障目的税とする国は寡聞にして聞かない。しかも、いまの消費税増税構想では、消費税を国税に固定化するので、地方へ税源移譲させるものがなくなり、地方分権の動きに逆行する。結局、野田政権の消費税増税は、財務省と厚労省の戦略的互恵関係の産物としか思えない。財務省は消費税増税、厚労省は社会保障予算の獲得で目的が達せられる。国民不在だ。政治のリーダーシップを発揮しないのをいいことに、各省が縦割りで勝手気ままに制度をいじくりまわしている——。
 以上のように問題点を列挙したうえで、高橋教授は「税率を上げる前に、税(保険料を含む)の不公平を直しておくのがセオリーだ」と強く主張する。
 税の不公平は穴のあいたバケツのようなもので、それでいくら水をすくっても効率が悪い。しかも税の不公平の是正は税率を上げるときに国民の納得感にも大きく影響する。高橋教授によれば、いまある不公平のうち、大きいのは社会保険料の徴収漏れだという。
 「国税庁が把握している法人数と日本年金機構(旧社保庁)が把握している法人数は80万件も違う。これは労働者から天引きされた社会保険料が年金機構に渡っていない可能性があることを示している」
 この「消えた保険料」は10兆円程度にのぼるのではないかと高橋教授は推計している。
 不公平としてはほかにも、クロヨンといわれる所得税補足やインボイスを採用していない消費税の徴収漏れなどがあげられる。こうした不公平は、民主党が政権交代前に公約していた歳入庁を発足させ、消費税にインボイス方式を導入するという先進国では当たり前のことをやれば、かなりの程度解消できる。
 「消えた保険料」で10兆円、「国民番号制度なし」で5兆円、「消費税インボイスなし」で3兆円。これに、あれやこれやを加えると、20兆円程度。歳入庁(それに伴う国民番号の導入)と消費税インボイスを先進国で導入していないのは日本だけだが、それをやりさえすれば、消費税を増税する必要がなくなるわけだ。しかし歳入庁構想には官僚の激しい抵抗がある。
(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】