記事(一部抜粋):2011年12月掲載

政 治

TPP騒動とオリンパス、あぶり出された体制不信

【霞が関コンフィデンシャル】

(前略)
 TPP交渉への参加をめぐって議論百出している。しかし、国際交渉への参加は政府の権限なのだから、外野がいくら力んで反対しても徒労におわるのは目に見えている。政府は交渉への参加はもちろん、条約の署名もその権限でできる。しかし、その政府に信用がないのが事態を混乱させている原因だ。
 TPPは、昨年横浜で開かれたアジア太平洋経済協力(APEC)の首脳会合で出てきた構想である。そこで交渉参加を表明すればよかったのだが、菅総理はタイミングを逃した。その後、自由貿易に参加するメリットについての意見が、農水省や経産省など政府部内で割れたことで、国民に向けて説明できるシロモノではなくなってしまった。
 ここが民主党政権のダメなところだ。民主党の議員はテレビなどではよくしゃべるが、それはすべて個人の行動であって、政府としての統一見解を示すことがない。
 TPP交渉は、前号でも述べたように躊躇なく参加すべきだ。第1の理由は自由貿易のメリットだ。もちろん自由貿易にはデメリットもあるが、メリットがそれを上回ることは経済理論的にも、歴史的にも証明されている。それが否定されるなら、その研究はノーベル賞ものだ。
 第2の理由は国際交渉上のメリットだ。TPPには今のところ中国が参加を表明していない。胡錦濤主席がTPPの支持を表明したと伝えられているものの、中国は本音では自由貿易協定に参加したくない。一方で、TPPで日米が連携を強めることには警戒感をもっている。
 日本がTPPに参加しておけば、中国が将来、自由貿易協定への参加を望んだり、新たな枠組みを提示してきた場合、TPPのルールづくりに加わっている日本は中国に対して有利な立場に立つことができる。
 いずれにしても、自由貿易は世界の流れだ。「ASEANプラス」という形でアジア地域の自由貿易が進む可能性もある。その場合でも日本は、TPPに参加していれば複数の選択肢があることになって、決して損にはならない。
 いまの国内議論をみていると、TPP慎重派(なぜか反対派とはあまりいわない。タイミングを見ての参加ということか)は、規制緩和反対派や民営化反対派とダブって見えてしまう。これも、政府に信用がない証だろう。
 というのも、もし慎重派が政府を信用していれば、規制緩和や民営化に伴うメリットの説明を受け入れるだろうし、もしデメリットがあるとしても政府によるセーフティーネットの整備で安心するはずだからだ。
 TPPについて議論していくと、医療の混合診療がどうなるか、郵政民営化がどうなるか、といった個別の問題の是非にいきあたる。
 政府が「TPPでは混合診療も議論の対象になる」といった途端に、慎重派から猛烈な反発を食らっている。要するに、現在の日本で原則禁止になっている混合診療が、TPPをきっかけに解禁されることを慎重派は恐れているのだ。歯科や産科ではすでに事実上の混合診療がおこなわれている現実を慎重派はどうみているのか。
 では、今の政府は混合診療について禁止か解禁なのか。そこのところがはっきりしていない。解禁というスタンスなら、早速法改正への準備が必要だ(今のままでは先の最高裁判決のように解禁できない)。(後略)

 

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