記事(一部抜粋):2011年10月掲載

連 載

【平成考現学】小後遊二

「訣別」

 再生可能エネルギーだけで原子力エネルギーの落ち込み分を代替できると考えている人が少なくない。菅直人前総理や福島瑞穂社民党党首だけでなく、多くの人がそう考えている。大マスコミの朝日新聞もそうした考えを支持する論陣を張っている。なんとも素晴らしいことだ。
 仮に風力や太陽光で日本の電力需要の30%を安定的に賄おうとすれば、日本は過去のしがらみと「訣別」できるかもしれない。
 まず日本の最大のガンは「中央集権」である。なかでもガン中のガンは農水省がらみの利権。大都市周辺が整然と開発されないのは市街化調整区域が虫食いのように残っているからだ。役人の匙加減一つでアパートなどが建てられるため、およそ住宅地とは言えない、雑然とした街並みとなる。そうした地域の農民は高齢化し、すでに80%以上が農業をやめているため、農地としての再生も期待できない。
 ソフトバンクの孫正義社長発案の「メガソーラー計画」ではこうした遊休農地にソーラーパネルを敷き詰めると称すが、経産省に利権が移るのを嫌がる農水省がそれを認めるとは思えない。
 農地は相続者が20年営農すれば相続税が免除される。果たしてソーラーをやっていても免除されるのだろうか?仮に免除されるとして、農地ではない土地を提供してメガソーラーに協力した人との不公平さをどう見るのか。疑問は尽きない。
 メガソーラーは広大な平地を使うが、稼働率は風力と同じく10%程度しかない。つまり理論値の10倍もの土地が必要であり、それが国土の利用方法として本当に適切なのか、冷静に考える必要がある。TPPの議論の入り口にも辿り着けない国が本当にやり遂げることができるのか、素朴な疑問が残る。
 一方、風力発電はヨーロッパでは太陽光よりも有力視されている。実際フィードインタリフ(固定価格買取制度)を高めに設定したドイツでは大きな風車が農村の風物詩になっているし、デンマークでは遠浅の海に見渡すかぎり林立している。日本でも商社などが色めき立っているが、風力発電の最大の障害は「漁業権」だ。
 国土に限りがある日本では洋上につくるしかないが、漁民が黙って許すはずがない。漁業権は日本と韓国にしかない奇妙な利権で、実際の損害額ではなく、漁民の(あるいは族議員の)納得する補償額が出るまでもめるのが通例だ。瀬戸内海の島に送電したり、電話線を引いたりするのに海中に1本でも電柱を建てれば途方もない補償を迫られる。
 関空島の建設では大阪、和歌山だけではなく、兵庫県の淡路島や対岸の徳島の漁民にまで補償金がばらまかれた。「ハマチの回遊路が変り悪影響が懸念される」という理由からだったが、関西国際空港がオープンしたあと、実際に補償に相当する漁獲高の減少があったという話は聞かない。単なるゴネ得のぼったくりに過ぎなかったと思われる。
 漁業補償は船1隻あたり、という形で支払われることが多い。すでに漁をやめている高齢者や兼業者などが船をいつまでも持つのは、アリ地獄のように餌(補償金)がずり落ちるのを待っているからだ。(後略)

 

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