夏も終わりにかかったある日、首相経験者の公設秘書だったA氏の個人事務所に、新宿税務署から「問い合わせ」が入った。
臑に傷持つ者でなくとも、ゼイムショと聞けばビクリとするものだが、さすが一国の総理に仕えたことのあるA氏、「新宿税務署」の名前を耳にしても、さほどセンシティブにはならなかった
「いったい何のことだね?」
この程度の意識しかなかった。だから、問い合わせには当初まともに応じなかった。
しかし税務当局の問い合わせは、次第に熾烈な色彩を帯びてくる。A氏は「探り」を入れてみた。元首相秘書だけあって、当局の本当の目的がどこにあるのか、それを探り当てるだけの術は持っているのだ。
分かったのは、調査の窓口は新宿税務署でも、背後には東京国税局の中核部門である課税1課の意向があるということだった。
「本局は何を狙っているのだろう」
課税1課が動いていると知ったA氏、新宿税務署からの問い合わせを、うっちゃっておくわけにはいかなくなった。
(中略)
手元に、A氏の平成22年分の所得申告書の写しがある。それによるとA氏が申告した総収入は、1600万円(プライバシーに配慮して概算金額とする。以下同)。内訳をみると、前述した大手証券会社から収入が950万円と、総収入の半分以上を占める。ほかには中堅IT企業の子会社からの120万円というのもある。ちなみにA氏の場合、収入の多くは「顧問料」という名目で入ってくる。
当局の問い合わせの要点は2つだと前述したが、その1つが東京・西新宿にあるT社という有限会社。ここからA氏は110万円の顧問料を得ていた。前出の東京国税局総務部関係者はいう。
「このT社、実はいまをときめく、超有名ブランドSの中核会社です。T社のT社長は、S社の創業者でオーナー。A氏がなぜT社の顧問となったのか、詳しくは言えないが、Sグループの実質中核的存在であるT社の顧問だということが、今回の問い合わせの大きな理由であることは間違いありません」
税務当局が、大きな利益を上げている会社に目をつけるのは当然といえば当然のこと。ちなみにS社は、顧問に元検事総長や元高松国税局局長、元警視副総監などを迎えており、いわゆる「武装」は頑丈だ。顧問弁護士も、業界では有名なH氏である。
要点のもう1つは、東京・日本橋蛎殻町の同じ住所にあるN社とJ社。それぞれ90万円、190万円をA氏に拠出している。前者は「報酬」、後者は「給料」という名目になっている。(後略)