記事(一部抜粋):2011年9月掲載

経 済

産業界「大合従連衡」の時代へ

【情報源】

 自動車業界を「カムリ・ショック」が襲っている。発端は、トヨタ自動車が北米のベストセラー車「カムリ」のフルモデルチェンジを機に、ほぼ全ての部品を現地調達に切り替える決断をしたこと。トヨタは震災後、国内生産の「300万台体制」維持を宣言しているが、「あくまで完成車ベースの話で、輸出部品は含まれていない」(大手部品メーカー)という。こうした現地調達の動きが、他車種、他メーカーへ波及するのは間違いなく、日本経済を底辺で支えてきた中小部品メーカーの淘汰と雇用破壊が、今後すさまじい勢いで進む可能性が出てきた。
 東北に拠点を置く関東自動車工業などトヨタ系三社の経営統合。「生産効率がアップし空洞化回避につながる」として大手マスコミは一斉に「東北強化」の見出しを打ったが、これとて、被災地への配慮や雇用問題で即時撤退は難しいことから、「東北を緩やかに縮小しつつ、撤退をできるだけ先送りするのが狙い」(業界関係者)という。自動車各社は国内の生産規模の維持を強調するが、その一方でトヨタはインド、日産自動車は中国での生産をそれぞれ倍増、ホンダもメキシコに新工場建設を計画するなど海外シフトは明らかに加速している。各社の本音は「空洞化の批判を浴びようが、生き残りのためには海外へ逃げるしかない」(自動車メーカー幹部)。
 製造業は震災前から、「円高」「高法人税」「労働規制」「環境規制」「貿易自由化の遅れ」「国内市場の縮小」という6重苦に喘いできた。震災後はさらに「電力不足」「超円高」に見舞われている。
 わが国のこうした構造的な問題はもはや民間レベルで対応しうる限界を超えている。にもかかわらず、民主党政権は政治主導をはき違え、大震災を契機に官僚依存はより強まり、既得権益を優先した非効率なシステムがいまだに横行している。円高対策も後手に回り、TPP議論も置きざり、戦略的な経済政策支援もない。これでは、大手製造業に海外移転の口実を与え続けているようなもの。産業界が、驚異的なスピードで進む経済のグローバル化に対応するため、政治に見切りをつけて、自らの生き残りのための戦略に走るのも当然である。
 そうしたなか、日立製作所と三菱重工業という国内最大手が、過去の歴史とプライドを乗り越え、インフラ事業を核として経営統合する動きが表面化した。これも、政府の産業政策の無策と無関係ではない。世界のインフラ商戦でライバル国は官民一体で強力な売り込みを展開するが、日本では政官による戦略的な支援が皆無に近い。このままでは、新興国向けビジネスを単独では勝ち抜けないとの危機感を両社が抱いたことは容易に察しがつく。
 ただ、経営統合を急ぐ日立と、部分統合にこだわる三菱の間にはかなりの温度差があり、報道が先行したことによる三菱側の反発も大きい。3倍の規模を誇る日立に飲み込まれてしまうとの警戒感も三菱側には強く、主導権争いが長引けば白紙撤回もありうる。
 いずれにせよ、この統合構想のインパクトは大きく、産業界のかつてない大合従連衡の呼び水になるのは必至。すでに半導体と原子力事業の東芝と航空機エンジンに強みをもつIHIの統合が取り沙汰され、これに鉄道、軍事の川崎重工業が合流するとの噂もある。(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】