記事(一部抜粋):2011年8月掲載

連 載

【平成考現学】小後遊二

「やらせメール」

 停止中の玄海原発再稼働の是非を巡り、国主催の討論会で意見を募ったところ、賛成が多数を占めた。原因は九州電力が組織ぐるみで社員や関連会社に協力を要請したから。それが露見し、マスコミは大騒ぎ。海江田万里経産大臣は九電の眞部利應社長に辞任を要求する事態に発展した。
 そもそも協力要請を受けた関連企業の社員が日本共産党に情報をリークしたことで、九州市議会に九電幹部が呼ばれ、やらせメールの存在そのものを否定したところ騒ぎが広がった。
 しかし、この事件はどこか変である。企業の存亡がかかったとき、その持てる全ての経営資源を投入して自己防衛するのは当たり前のこと。原発反対運動や地元住民説明会に共産党やグリーンピースが支持者を総動員して騒ぎ立てるのは公知の事実だ。自分達が動員するのはよくて電力会社が動員した場合に「やらせ」とはいったいどういう神経なのか。公明党が選挙戦で宗教団体に総動員をかけるのも日常茶飯事のこと。アマゾンの書籍やCDランキングでも企業や経営者関連の書籍が出販されると無理矢理サイトを通じて購入し、ランキングを上げる。音楽事務所やタレント事務所では「やらせ」と「動員」は重要ミッションだ。
 一般に捕鯨でも原子力でも反対運動の方が動員しやすく、マスコミにも取り上げられやすい。原発推進で盛り上がったでは記事にはならない。原子炉建設反対に大集会が開かれたと書けば記事になる。
 国が玄海原子炉の是非を問う討論会を主催、といえば賛成・反対両派が人員を動員するのは当然予想されたこと。反対意見を述べた側に動員とやらせがなかったのかも調査すべきだ。おそらく「お互い様」という背景が暴露されるはずだ。
 「朝日新聞的戦後民主主義」と言われるものの多くは左派勢力による世論操作であった。今回も朝日新聞だけは菅直人首相の「脱原発宣言」をいち早く支持した。これは「核無き世界の実現」を菅発言の延長線上に見ているからだろう。
 それは「正しい方向」なのかも知れないが、時間軸やコスト、産業へのインパクトを考えれば、現時点では「正しい決定」とは言いがたい。
 しかし、玄海の再稼働が困難となったいま、定期点検中の原子炉を再稼働する方法については全く目途が立っていない。点検を終えて再稼働し、調整運転中だった関電の大飯原子炉も硼酸注入系のトラブルから再停止に追い込まれた。これを稼働するのは容易ではない。
 原子力安全委員会も保安院も、そして経産省さえも国民の信頼を失ってしまった。誰が何をどう説明すれば地元住民の賛成が得られるのか。自治体の首長も、原子炉への恐怖を訴える「子供を持つ母親」やグリーンピースが動員されたときに、マスコミが偏向報道すれば「再稼働OK」とは言えないだろう。
 産業界や電力会社は今回の騒動で間違ってもやらせや動員はできなくなった。つまり、首長に届く声が大きく歪んだものになっても、手の打ちようがない。その最悪のシナリオを避けるためにも九電には「やらせのどこが悪い!」と開き直ってもらいたかった。企業の死活問題であるだけでなく、九州経済にとっても致命的な電力不足を避ける唯一、最後の分水嶺だった。国策で進めてきた原子炉建設、そして玄海でやっているプルサーマル。いずれも経産省の強い指導のもとに進められた。その経産省が敵前逃亡し、やらせメールの責任を九電幹部に問い、海江田大臣が眞部社長の退陣を要求した。
 本件がおかしくなったのは、経産大臣が「安全」と判定したものを、菅政権が一週間後に「ストレステスト」という形で覆してから。九電も玄海を抱える自治体の長も被害者だ。眞部社長は絶対に退陣すべきではない。
 反原発グループのやらせと動員を暴き、マスコミの理不尽さを突き、トカゲの尻尾切りに走る経産省のいい加減さを白日の下に晒してもらいたい。

 

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