(前略)
一方、武富士の再建はというと、入札を経て、韓国の消費者金融業者「A&Pファイナンシャル貸付」がスポンサーになることが決まった。代表にはA&P社の日本での関連会社で、焼肉店やパチンコ店を運営する「ヤマジュングループ」(名古屋市)の山本潤社長が就任する予定だ。
A&P社が七月中旬に東京地方裁判所に提出した更生計画によると、会社分割の手法を活用し、武富士を債権者への支払い業務や資産売却などを手掛ける旧会社と、武富士のブランドを継続して利用し、新規の貸し付けなどを展開する新会社に分割する案が練られている。
A&P社は、韓国で「ラッシュ&キャッシュ」というブランドで消費者金融を運営しており、三〇〜四〇代の会社員を中心に融資、一五〇〇億円の貸付残高を持っている。
日本の消費者金融市場は、上限金利の引き下げや総量規制の導入、過払い金の返還負担により衰退傾向にあるが、韓国の消費者金融市場は、未だ上限金利が四四%と高く、高い利幅が期待できる有望市場。A&Pは、一層のスケールメリットを享受するための日本市場進出の手立てとして武富士買収に乗り出した。
日本の消費者金融にとっては、外資による消費者金融会社の再建という新たなステージを模索する意味合いがある。
こうした日韓を跨ぐ消費者金融M&Aの動きは、韓国から日本への流れだけではない。日本から韓国市場への進出も動き出している。先鞭をつけようとしているのは、ノンバンクの雄、オリックスだ。
オリックスは昨年九月、ソウル市に本店を置く貯蓄銀行で、中堅・中小企業向けに事業資金や設備資金融資を展開している「PUREUN2相互貯蓄銀行」を買収した。「韓国の金融市場へ本格的に乗り込む橋頭保の役割を果たす銀行」(メガバンク幹部)というのが金融界の共通した認識で、オリックスは「アジア市場でのプレゼンスを一層高めるために、今後もM&Aを積極的に展開していく」(同社関係者)という。
「プロ野球のオリックス・バッファローズが今期から韓国野球界出身の朴賛浩投手と李承ヨプ内野手を獲得したのは、オリックスが韓国の金融市場に本格的に進出するためのイメージ戦略の一環とみられています」(金融関係者)
オリックスのアジア戦略を強力に推し進めるのが、今年一月に新社長に就いた井上亮氏だ。
井上社長は、前任の簗瀬行雄氏(元あさひ銀行頭取)と違い生え抜きからの昇格。ギリシャや米ロサンゼルス駐在の経験を持ち、一貫して国際畑を歩んできた。直近の副社長時代も「グローバル事業本部長として韓国・中国地域などを所管し、大韓生命保険への投資や、一〇年の中国・大連の中国本社設立を主導した」(オリックス関係者)。PUREUN2相互貯蓄銀行の買収も、「実質的なオーナーである宮内義彦会長と井上氏が手掛けた案件」(同)と言われる。
オリックスは日本で培った融資ノウハウを生かし、韓国の消費者金融市場で卸金融業者としてシェア拡大を目指すとみられている。韓国球界の英雄をオリックスに招聘した背後には、したたかな戦略が隠されている。
韓国よりもさらに大きな市場として注目されるのが、年率一〇%近い経済成長を続ける中国だ。
中国政府は〇九年夏、国内外の金融機関に消費者金融会社の設立を解禁する方針を表明した。実験的に上海市、北京市、天津市、成都市の四都市をモデル地区として開放し、消費者金融会社の設立を促すという。
この「解禁」に合わせ、日本を含む海外金融機関にも市場を開放するのではという期待が、日本の金融界にはある。
中国政府は「中国に駐在員事務所を設置してから二年以上の外資系金融機関についても、当局との良好な関係などを条件に参入を認める」との方針を示しており、メガバンク系列の消費者金融会社に中国進出が認められる可能性はある。
消費者金融という業態そのものが、「中国一三億人の巨大な消費市場が本格的に動き出す起爆剤になる」(同)という見方もある。中国の個人向け金融ビジネスには、これまで住宅ローンや自動車ローンなどの担保ローンはあったが、無担保・無保証を基本とする消費者ローンはなく、そのノウハウの確保が中国金融界の課題になっている。中国政府が参入の条件に上げる「当局との良好な関係」とは、こうした消費者金融に関するノウハウの提供を指しているとみられている。
(後略)