記事(一部抜粋):2011年8月掲載

政 治

「古賀問題」が浮き彫りにした公務員制度改革の大欺瞞

【霞が関コンフィデンシャル】

(前略)
 いま日本で最も有名な公務員といえば、経済産業省の古賀茂明氏(55歳)だろう。
 筋金入りの改革派。政府の国家公務員制度改革推進本部事務局では審議官として抜本的改革案をとりまとめたが、既得権益を守りたい霞が関の怒りを買い、推進本部から本省に戻った後、1年半にわたって「官房付」という閑職に飛ばされた。そして7月中旬、経産事務次官から「肩たたき」(勧奨退職)を受けた。
(中略)
 古賀氏が理想としていた公務員制度改革の要点に、「政治任用」の制度化があった。
 霞が関の役人には、皆それぞれ出身省の背番号がある。たとえ官邸に出向していても、各省の背番号を背負っている。その好例が、部内の座席表。座席の氏名の上に「○○省△△年」と出身省と入省年次が記載されている。官邸での任務が終わると、各自それぞれ出身省に戻される。これが普通の「任用」だ。
 しかし「政治任用」は、出身省の背番号を返上し、政権のためだけに働く。背番号がないので出身省には戻らない。政権が終われば退職するという考え方だ。
 公務員改革基本法では、官邸の国家戦略スタッフ、各省の政務スタッフが任用されるとなっており、それを政治任用とすると想定していた。もちろんスタッフの全てが政治任用でなくてもいいのだが、仕事にきっちり責任を持たせるためには、一部は政治任用のほうがいい。また、国家戦略スタッフや政務スタッフの外部登用を増やし、開放度を高めるという狙いもあった。
 政治任用の制度化は世界的な流れでもある。政策を立案、実行していくためには、公務員としての中立性とともに、政治的即応性が必要だ。要するに、中立性と政治的な即応性のバランスが重要。そのために一般の公務員だけでなく、政治任用公務員を増やし、開放的で競争的な上級幹部公務員制度をつくる必要がある。
 ちなみに、先進国では各省事務次官は、政治任用と生え抜きが半々くらいという国が多い。日本のように全て生え抜きという国はない。
 政治任用ポストは権限も大きいが、責任も大きい。つまり、能力がないとなればすぐにクビにできる。
 しかし日本では、各省庁の上級幹部は、いざクビにしようとすると、単なる労働者だといいはり、解雇はできないと主張する。たしかに今の制度では、この奇妙な主張も間違いとはいえない。
 古賀氏の主張は、そうした公務員制度こそがおかしいというもので、「自分もいつクビになってもいい」といっている。しかし役所は古賀氏に退職を勧めるものの、クビにはしない。古賀氏を強引に辞めさせたら、今度は自分たちもクビになるかも知れないと尻込みしている。なんとも滑稽だ。
(後略)

 

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