(前略)
A 現場軽視といえば、金融界にもそんな大会社がある(笑)。
C みずほグループのこと? たしかに震災直後に発生したシステムトラブルが象徴するように、みずほの現場軽視は目に余る。
B 現場軽視とは、すなわち顧客軽視。あってはならない話だ。
C みずほのシステム障害は、震災と原発問題の陰に隠れて目立たないが、実はとんでもい不祥事だ。決済業務の信頼性を著しく傷つけたのだから罪が重い。
B みずほの経営陣は一応、責任を取ったが、自主的とはいい難かった。金融庁の圧力に屈したようにしか見えない。
A 本誌の前号でもレポート記事が載っていたけど、最も責任が重いのは3人の特別顧問だ。旧富士銀行出身の前田伸晃、旧日本興業銀行の斉藤宏、旧第一勧業銀行の杉山清次の各氏。なかでも前田氏は、みずほをダメにしたということでは最も指弾を受けていい人物だ。しかしいまだに3氏は特別顧問に居残っている。常識を疑うね。
(中略)
B それにしても、みずほグループの役員陣を見回すと、見事なまでに人材が払底している。
A できる人材を放出したら、そうなるのは当たり前。逆に見れば、みずほグループの特徴として、関連会社にはなかなかの人物がいる。リース会社のトップは、本来であれば銀行の頭取になる人たちだったし、関連不動産会社、シンクタンクなどもそう。みずほグループは、関連企業が中核になって、銀行がその子会社になったほうが将来性がある。
C 確かにそうだ。たとえば芙蓉総合リース会長の小倉利之氏は、早い段階から頭取候補と目されていた人物。切れ者だし、人望もあった。みずほFGが誕生した当時、最も革新的な発想をしていた一人だ。しかし旧行人事、ポストの打破を掲げたことが旧行体制の維持に執着する周囲に警戒された。小倉氏の主張が生かされていたなら、みずほもこんな惨めな状況にはなっていなかっただろう。
A 小倉氏を外に出して前田氏を後継に選んだのは、富士銀行の最後の頭取で、みずほの3人の初代CEOの1人である山本氏だ。山本氏はいまごろ猛省しているにちがいない。
B 前田氏は現在、国家公安委員会の委員を務めている。この人は、肩書や金銭に関心がないタイプといわれてきたが、実際は名誉欲の強い人なのかもしれない。
A 前田氏を慕ってきた旧富士出身者のなかにも、最近は失望感を隠さない人がいる。まあ、見る目がなかったということだけど。
C 3人の特別顧問は昨年、金融庁の検査を受けた際に、会長から特別顧問に退いた。会長時代は1億円以上の年収を得ていたようだね。しかし特別顧問に退いたいまも、会長時代と同じ部屋を使い、秘書とクルマ付きの勤務というか生活を続けている。
A なんでも、特別顧問室は頭取室より広くて、クルマも頭取のものより豪華らしい。かつての日本企業の悪しき慣習が、みずほでは復活していたわけだ。
B みずほの由々しき問題は、旧3銀行ごとの人事がいまだに継続していることだ。旧富士の西堀氏を選んだのは前田氏であり、旧興銀の佐藤康博・コーポ銀頭取を選んだのは斉藤氏だった。
A 旧一勧出身で持株会社社長の塚本氏を選んだのも同門の杉山氏、といいたいところだが、杉山氏はしょせん傀儡。実質は前田氏の人事だった。
C そういえば4月28日に、『朝日新聞』が妙な「スクープ記事」を飛ばしていたね。西堀氏が辞任の意向で、後任には副頭取の吉留学氏、みずほ信託社長の野中隆史の両氏が有力——という内容だった。
A 両氏はともに旧富士銀出身。つまり「みずほ銀行頭取」が「旧富士銀ポスト」であることに変わりはなく、旧行ベースの人事が続くということだ。
B みずほの関係者によると、その記事が出るちょっと前、朝の役員会議の場で、西堀氏が「近く、全国紙で驚くような記事が出るが、気にしないように」と発言している。全国紙に人事の話をリークして、金融庁などの反応を確かめたのだろう。
C おそらく朝日も、後になってまずい記事だったと気がついた。そこで突然、みずほ批判の企画記事を上下に分けて掲載した。件のスクープ記事を書いた記者と、編集委員の連名でね。内容は正直薄かったけど、きっと朝日にとっては必要な記事だったのだろう。
A 被害者は後継候補に名前を上げられた信託社長の野中氏だ。もともと野中氏は、その実力と人望から、いずれはみずほ銀行の頭取になるとみられていた。それが前田人事で信託の社長に転出させられ、ノーマークだった西堀氏が頭取に就任した。みずほ信託は上場企業で、野中氏は現在、信託協会の会長を務めている。そういう立場にある野中氏が、非上場のみずほ銀行のトップに逆戻りすることはあり得ない。吉留氏の名前だけが出るのがまずいから、名前を使われたということだろう。野中氏には同情するね。(後略)