記事(一部抜粋):2011年5月掲載

経 済

今こそ東北に「メガ第二地銀」を

【金融ジャーナリスト匿名座談会】

(前略)
B それにしても被災地の状況は厳しい。海沿いの水産加工業者などは、自宅も工場も全壊したところが少なくない。生産設備を喪失しても運転資金は必要だから、業者は金策に走っている。地元金融機関や自治体が制度融資などで対応しているが、生産設備が回復するには時間がかかるし、原材料になる水産物の水揚げは、港湾機能が回復するまでは期待できない。しかし現地の港湾施設は破損が著しく、漁師の船も壊れている。養殖施設も大きな被害を受けている。
C 時間がかかりそうだね。水産加工業者はどうなるんだろう。
B 関東など他の地域に移転するしかないかもしれない。しかし移転するにしても時間がかかる。その間は、倒産を回避するために資金借り入れを続けるしかない。
C 当面は返済が猶予されるにしても、いずれ返済時期がくる。業者はそれに耐えられるだろうか。
A それと心配なのは、復興までの時間が長引くことで、事業者たちの事業再開意欲が萎えてしまうこと。そうなれば破綻手続きということになる。
B それを当て込んで、怪しげな再生ビジネスが被災地に入り込み、営業権を漁りまくるケースも考えられる。そうなれば事態はいよいよ混沌としてくる。
A 被災者の不動産を漁る輩も出てくるだろう。政府は「復興ビジョン」などと言っているが、おそらく策定に何カ月もかかるだろう。その間に精根尽き果てた被災者は、慣れ親しんだ土地を手放すかもしれない。そしていざ復興となったら、肝心の住民も従業員もいない、残ったのは土地を安く買い叩いた業者ばかりといことになりかねない。それを防ごうという発想が、政府にはまったくない。
B 被害にあった地域の不動産は評価額を著しく下げた。不動産を担保に入れている借り手にとって大変な事態だ。
C 現状の金融検査マニュアル通りなら、不動産を時価に洗い直した実態バランスシートでの資産査定になる。返済不能という烙印を押されるか、追加担保だ。金融検査マニュアルの例外規定を早急につくらないといけない。金融庁は待ったなしの対応を迫られている。
A 早くしないと、借り手業者はお手上げとなって、「不動産を買いますよ」という甘言に乗るしか道がなくなってしまう。
B 政府は被災現場の調査をきちんとやっていないので、正確な状況を把握していない。これではまともな政策など打てるわけがない。放置状態といっても過言ではない。
C それなのに、内閣が危機的状況になると、菅首相などが現地視察に乗り出す。統一地方選の際にも現地入り。その度に被災地の人たちは無駄な労力を強いられる。
A いずれにせよ、今回の震災が金融機関へ与えた影響は計り知れない。被災地の金融機関はもちろんのこと、そうでない金融機関もこれから大変だ。
B 思わぬところで企業倒産が起きるかもしれない。日本経済のサプライチェーンはずたずたにされた。取引先の部品工場が全壊したため、部品調達ができず、生産停止を余儀なくされるメーカーも珍しくない。体力が乏しい業者はひとたまりもない。
C 自動車業界が深刻な影響を受けている。部品が十分調達できず、生産能力が落ちている。メーカーは耐えることができても、販売店は耐えきれないかもしれない。
A ディーラーは当面、中古車の販売で凌ぐしかないだろう。
B 被災地の金融業界ではこれから具体的に何が起きるだろう。
C 再編が不可避だ。金融庁もそれを後押しする。
A 第二地銀が単独で残る余地はほとんどない。しかし地元地銀との合併は、吸収するほうの地銀の方が二の足を踏む可能性が高い。そうなると県外の地銀ということになるが、すんなり行くかどうか。
B それより、以前この座談会で話したように、東北の第二地銀がすべて統合しするほうがいい。「メガ第二地銀」という考え方だ。
C それは面白い。十分あり得る話だ。そこに政府は公的資金を有効に注入すればいい。
A しかし問題なのは、脆弱な銀行が集まっても、強い銀行にはなれないだろうという点だ。(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】