記事(一部抜粋):2011年5月掲載

政 治

震災のどさくさ利用し増税計画が着々進行中

【霞が関コンフィデンシャル】

(前略)
 昨年8月に退任した石田徹・前資源エネルギー庁長官が今年1月、退任後わずか4カ月で東電に天下った。民主党政権が、天下り根絶を謳いながら、実際には天下りが、根絶どころかエスカレートしていることを示した人事だ。
 石田氏が東電の顧問に再就職したことが、天下りとして問題になるかという点について、枝野幸男官房長官は2月2日の記者会見で、「昨年6月に閣議決定した『退職管理基本方針』に沿ったものだと経産省を通じて報告があった」と述べ、天下りにはあたらないという認識を示した。経産省はシメシメと思ったに違いない。
 ところが4月13日の衆院内閣委員会で、原発事故をめぐる東電と経産省のもたれ合いを指摘されると、枝野氏は「法律的に規制は難しいが、行政権行使として許された範囲内で他の電力会社も含めて許さない姿勢で対応する」と、姿勢を一転した。
 その後、枝野氏は石田氏に辞職を促し、他の電力会社への天下りも、「当分の間」自粛するよう要請、さらに、電力会社以外への天下りについても自粛を要請した。経産省としては、踏んだり蹴ったりだろう。
 この枝野氏の場当たり的な対応には、当然、批判の声が出た。2月の時点で石田氏の東電顧問就任を「問題なし」としていた点を突かれると、枝野氏は、弁護士らしく、「法律上の問題がないと言ったまで」と弁明した。
 しかし、枝野氏は「経産省に聞いただけ」で、法律上の問題がないと判断している。経産省に聞いても「問題ない」と答えるに決まっている。民主党政権は、こうした問題を第三者の立場から扱うものとして法律上設置すべき「再就職等監視委員会」を、法律を無視していまだに設置していない。当事者である経産省の言い分だけを聞いて「法律上の問題なし」と判断したのだ。
 再就職等監視委員会を設置せず、天下りを許している民主党の責任は大きい。原発事故をきっかけに批判が高まり、問題だといわれると、あわてて自粛を要請したが、これも中途半端だ。「自粛要請」は「本当はやってもいいのだけれど、時節柄やめてほしい」という意味だ。しかも自粛は「当分の間」である。経産省の文書では「原発事故を収束させ、事故原因を検証し、原子力安全行政の検討をして、その結論がでるまでの間」とされている。つまり、それが済めば天下りができると書いてあるように読める。
 しかし、ほとんどの国民は、天下りはずーっと禁止してほしいと思っている。そうでないと安全行政などできないと、今度の原発事故対応をみて思っている。
 ところで今回の自粛要請は、石田氏にとって助け舟になったという見方もできる。石田氏は4月末までに東電顧問を辞任するが、莫大な補償を迫られいまや泥船状態の東電から、体よく脱出できる切符を与えられたようなものだからだ。
 エリートとは本来、組織の先頭に立って危機に立ち向かう人のことをいう。エネルギー行政に精通する優秀なエリート官僚だった石田氏は、本来、こうした危機的状況でこそ、その能力を発揮すべき人である。東電に残って、場合によっては私財を提供し、最後の最後まで責任をとるべきだ。自粛要請に乗じて敵前逃亡をはかるような真似はすべきでなかった。
 こんなことだから天下りは、「おいしいところだけもらっている」「ずるい」と批判されるのだ。
 菅政権と経産省の関係が、微妙なものになっている間隙を縫って、財務省はやりたい放題だ。
(中略)
 財務省のさらに凄いところは、大震災を逆手にとって増税を仕組んだことだ。
「復興構想会議」が4月14日にスタートしたが、その会議の冒頭で五百旗頭真議長から復興税の構想が出された。何の議論もされていない段階でいきなり増税の方向が打ち出されたのだ。実際、これををきっかけに、一気に増税ムードが強まってきた。震災の被害にあった人の役に立ちたいという国民の素直な気持ちを利用した、あざといやり口だ。
 とりあえずは、復興財源のために復興債を発行するが、これは増税のための「つなぎ国債」で、2012年度から3年間限定で消費税を3%引き上げという案が出ている。「復興に要する経費は国民全体で負担する」という精神論が、理屈にされている。
 むろんこの増税論(精神論)は、経済理論に反している。100年に一度の大震災のショックは、100年に分割し、現在と将来の国民が負担すべきもので、本来であれば100年国債とすべきだ。震災復興はインフラ整備なので、赤字国債ではなく建設国債である。将来へのつけ回しという批判もあたらない。
 増税を悲願とする財務省は、用意周到に復興構想会議を水面下で誘導している。五百旗頭議長だけでなく、他のメンバーも異口同音に復興税を口にするのは、財務省の「レク」の賜だ。同会議の事務局は、財務省出身の佐々木豊成内閣官房副長官補が取り仕切っていている。会議のスケジュール設定などを通じてメンバーに接触し、復興増税を吹き込んだだろうことは想像に難くない。
 財務省は、総理秘書官、官房長官秘書官など、官邸内の様々な重要ポストを握っているので、官邸全体をコントロールすることができる。マスコミに対しても、各新聞社の論説委員クラスへの「ご説明」を繰り返すことで、増税の地ならしを進めてきた。
 その甲斐あってか、各種世論調査の結果をみると、震災復興のために増税を容認すると回答した人は、全体の6〜7割に及んでいる。(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】