記事(一部抜粋):2011年4月掲載

連 載

【中国ビジネス最前線】五百騎駿

「ジャスミン革命」の伝播より恐ろしい「官僚の腐敗」

(前略)
 中国は改革開放以来30年以上も経済を成長させるという、先進国には真似のできない記録を持っているが、もうひとつ、圧倒的な記録を有しているものがある。官僚の汚職だ。
 全人代の活動報告によると、2010年に摘発された汚職件数は3万2909件(前年比1.4%増)、起訴された官僚は4万4085人(同6.1%増)にのぼる。汚職官僚のうち閣僚級の高級幹部は6人、地方の局長級幹部は188人である。中国政府が「ジャスミン革命の伝播よりも腐敗を恐れる」のは、汚職の実体が、実は発表された数字よりも遥かに深刻で、この状況が続けば政権が危機に瀕するのは必至とみているからだ。
 たとえば「新幹線汚職」だ。中国は北京五輪と上海万博を、国威発揚の機会と捉え、全土に新幹線網を敷く計画を立てた。昨年末までに総延長4670キロを達成したが、着工からわずか4年。日本の総延長距離が2300キロしかないことを考えると、驚異的な数字である。しかも、そのわずかの間に中国は、日独仏から新幹線運営のノウハウと車両製造技術を導入、試験走行で時速480キロを実現した。日本なら、担当した官僚は「新幹線の父」と讃えられ、名を後世に残したことだろう。
 だが、功労者のはずの鉄道相と、その片腕の運輸局長は、いまや囚われの身である。事件の真相は藪の中だが、現時点で分かっているのは、運輸局長のすさまじい蓄財ぶりである。豪華別荘3軒を所有する米国に妻子を住まわせ、米国とスイスの銀行に28億ドル(約2300億円)の預金を持ち、いつでも中国から逃げ出せるよう、複数の国のパスポートを用意していたという。
 とんでもない額のリベートが官僚に還流した分、肝心の工事はおざなりとなり、高速振動に耐えられない危険があると報じられている。しかも、同じくリベートまみれだった鉄道相が、さらに上の地位(副首相)を目指し、多額の工作資金を権力中枢にばらまいていたといえば、温家宝の「腐敗が政権の危機を招く」という発言の重い意味が理解できるだろう。
 現政権は、共産党政権とはいえ、官僚制の伝統を受け継いで国民を統治している。その要である官僚組織の腐敗がこれ以上進めばどうなるかは、中国の歴史が証明するところだ。
 中国語には「三公消費」という官僚を蔑む言葉がある。罪が問われることのない公務員の三大特典、「飲食費」「専用車」「海外出張費」のことだ。
 驚くのはその額。中国の官僚が飲み食いに費やす飲食費は年間3000億元(3兆9000億円)。また、どんな田舎の政府も専用の高級車を保有しており、その買い替え代金は、飲食費とほぼ同額の約3000億元。さらに公務員が海外旅行する費用がやはり年間約3000億元。合計では9000億元(約11兆7000億円)という途方もない額になる。
 なぜ、これほど巨額の資金を官僚が使うことができるのかと、日本人としては不思議でしょうがないのだが、中国では、官僚が国民を指導するためには多額の費用がかかるのが当たり前と考えられている。しかも、その何倍ものカネを、官僚が湯水の如く使っているのが現実という。(後略)

 

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