(前略)
同じプロ野球でありながら、なぜこうも足並みが揃わないのか。
もっともパ・リーグに限れば、足並みは揃っている。2007年に「パシフィック・リーグマーケティング」という株式会社が設立され、それまで各球団が独自に実施していたマーケティング活動を統一して行うことになった。ウェブサイトの管理も一括して行われるようになり、動画配信などファン目線のサービスも充実した。6球団が協力しあうことで営業力が強まり、観客の増加という形で結果に表れている。昨年の観客動員数は1000万人に迫る勢いで、セ・リーグと拮抗しつつある。
対するセ・リーグは、ホームページは各球団バラバラで、プレスリリースもそれぞれが勝手に出している。
巨人が読売新聞、中日が中日新聞、横浜がTBSと、3球団の親会社が大手メディアで、ヤクルトもフジサンケイグループとの関わりが深い。それがリーグとして共同歩調をとるうえでの障害になっている。とくに読売と中日は中部地区で熾烈な販売競争を繰り広げた因縁の間柄。パ・リーグのように共同マーケティング会社を設立するという発想は生まれにくい。しかも球界の盟主を自認する巨人の実質オーナーである渡辺恒雄氏は、筋金入りの唯我独尊体質だ。(中略)
セ・リーグが当初3月25日のナイター開幕に固執したのは、その日の夜に行われる予定だったフィギュアスケートの国際大会とサッカー日本代表の試合が中止となり、巨人戦の視聴率が上がると考えた読売グループの強い意向が働いたためではないか、との憶測も囁かれている。真偽のほどは定かでないが、そうした憶測が流れること自体、プロ野球のイメージダウンを招く。セ・リーグの各球団は、国難に際し球界が一致団結するのではなく、相変わらずそれぞれが勝手な思惑で動いている、そう見られてしまうのだ。
本来であれば、日本野球機構(NPB)の最高責任者であるコミッショナーが、大所高所から最も妥当と思われる判断を下すべきだが、残念なことにまったく指導力を発揮できずにいる。
現在その任にあるのは、加藤良三氏。1965年に東大法学部を卒業し外務省に入省。総合外交政策局長、外務審議官、在米特命全権大使などを歴任したエリート外交官で、退官後は三菱商事特別顧問。08年からNPBコミッショナーを務めている。
しかしこの間に加藤氏が発言したことといえば、「両リーグの決定に、コミッショナーとして異論を唱えるつもりはない」というものだった。その後、文科省からナイター自粛の要請があったときにも、マスコミの取材を避け、何のコメントも出さなかった。(後略)