複数の女、クルーザー、高級外車、海外での豪遊、支払い青天井のブラックカード——贅の限りを尽くしていた元暴力団員の詐欺師・大東正博容疑者は、2月7日、組織犯罪処罰法違反容疑で逮捕された。今後、起訴され公判が始まるが、おそらく長期の実刑判決を受け、臭い飯を食うことになる。
犯罪の舞台となった岡本ホテルグループは、熱海の温泉旅館・岡本ホテルを拠点に、業績不振の温泉旅館を次々に買収、その資金は、高い利回りを保証、温泉も利用できる形にした預託金商法で掻き集めた。
販売開始は2005年4月からで、5年後には保証した元本を返さなければならない。だが、大東容疑者は、ハナから返すつもりはない。事件化は覚悟の上で5年間の短期勝負、約8000人から200億円以上を集め、40億円を散財した。
資産を隠し、一部は海外に逃避させている可能性もある。しかし、こうした「バブル犯」の常で、意外に隠し持てない。現在、59歳の大東容疑者は、壮年期の最後にひと花咲かせたわけで、本人の意識はともかく、傍目には「太く短く」の詐欺師らしい収支決算をつけたように思える。
この事件を捜査当局は、ただの詐欺事件、ただの出資法違反事件で終わらせるつもりはなかった。既に、カタギになっているとはいえ大東容疑者は元山口組系暴力団の組員。その出自と人脈から多くの企業舎弟や組幹部が群がり食い物にしていった。
警視庁と静岡、兵庫、福井県警の合同捜査本部はそこに目を付けた。だから主力の警視庁は組織犯罪対策四課が出張ったし、昨年5月の家宅捜索時の容疑は出資法違反でも、逮捕容疑はそれよりワンランクアップした組織犯罪処罰法違反となった。
狙いは暴力団に流れたカネの解明である。既に、直接、山口組の3次団体組長の関係先に、数億円、振り込まれていることが確認されている。
どんな関係か。
「大東は、いくつかの山口組系組織に属していましたが、最後にいた組の元若頭とつき合いがあった。元若頭はその後、自分で組を起こしています。大東とは長く交遊を続け、送金されたカネは不動産売買に使われたとか。岡本ホテルの家宅捜索後は、大物ヤメ検(弁護士)を紹介しており、一蓮托生といっていいでしょう」(警視庁関係者)
こうした資金ルートは「暴力団が食い物にした預託金商法」という事件の性格を反映するものだが、捜査当局は「その先」を見据えている。
事件を追う警視庁担当記者が、こう感想を漏らす。
「最近、警察は弘道会になんでも結び付けようとする傾向があります。それは安藤隆春・警察庁長官が、ことあるごとに『弘道会をなんとかしろ!』と、檄を飛ばしているから。岡本ホテル事件にも弘道会の影がチラつくので、合同捜査本部はそちらを最終ターゲットにしているんです」
安藤長官の有名なセリフに、「弘道会の弱体化なくして山口組の弱体化はなく、山口組の弱体化なくして暴力団の弱体化はない」というのがある。
弘道会とは、名古屋を拠点にした山口組の2次団体で会長は山口組若頭の高山清司被告(恐喝罪で昨年末に起訴)、山口組6代目の篠田建市(通称・司忍)組長(服役中)の出身母体でもある。
構成員と準構成員を入れた勢力は約4000人。山口組では約6000人の山健組に次ぐ。ただ、「当代」の6代目と、ナンバー2の若頭を同時に抱えるだけに、力は圧倒的となった。それを象徴するように、海上空港建設の埋立用土砂や砂利は暴力団の利権だが、中部国際空港も羽田D滑走路拡張も、仕切りは弘道会で、弘道会系業者がゼネコンとの間に入ったといわれている。
その組織力を高めたのは高山若頭の力で、五代目時代の古参組長をさまざまな圧力を加えて除籍処分などで排除、「直参」と呼ばれる直系組長には、月曜日から金曜日までのウィークデーに神戸の本部に詰めさせ、ペットボトルを始めとした一部の飲食物や日用雑貨は「山口組指定」の購入を命じている。
このトップダウンの強権支配は弘道会特有のものだが、さらなる特徴は警察やマスコミとの関係遮断にある。情報を漏らさず、飲食をともにせず、事務所に入れさせない。馴れ合わない姿勢は徹底していて、盆暮や賀状の受け取りも拒否する。
高山若頭と親交があるという企業経営者が半ば呆れ、半ば感心する。
「ホントに徹底しています。数年前から、盆暮の挨拶は『遠慮させてもらいます』と、拒否。昨年は、事前に『ご迷惑になりますから年賀状も出さないでいただきたい』と、秘書役から連絡がありました。弘道会と関係があるというだけで『反社会的勢力』といわれる。それに気を使っているんでしょう」
高山被告は、自分の新幹線での移動は、車両1台を半ば借り切りにする警戒ぶりで、外出には首相につくSP以上の屈強な警備隊が周りを固める。暴力団のなかでも「マフィア化」が、最も進んだ組織といっていい。(後略)