民主党は政権交代から間髪入れずに税制の抜本議論をやっていれば、すべての責任を自民党に押しつけることができた。イギリスのキャメロン首相は就任直後に大幅な予算カットを打ち出し、長く続いた労働党政権にすべての責任をとらせた。
少し手遅れではあるが、世界で一番増税が嫌いな日本国民のために、多分次の政権の仕事となる「抜本的な税制構築」の話をしておこう。手をつけた途端に今の政権は壊れるだろうし、次の政権は実施しようとして崩壊するので、民主党に政権が戻ってくるという皮肉を込めた民主党への贈り物である。
まず第一に、「日本は税負担が少なく、社会負担にしわ寄せしてきた」という二つの負担をゼロベースで見直す必要がある。健康保険や年金は給料から引かれるが税金ではない。北欧社会ではこうしたものはすべて税金として徴収している。したがって老後の心配が要らないから日本のように過剰な貯蓄や保険に入る必要がない。いざとなれば国がすべてやってくれるからである。日本は貯め込んだ個人金融資産が国債を買う原資になっているし、国債が破綻すればすべて国にパクられるので、実は税金よりもひどい国家の略奪行為に荷担しているのだ。だが、国民は知らない。GDPの200%に及ぶ公的債務は返済不能だから、当然最終的には国家による没収ということになる。税金を安くして国民に貯蓄させておいて、イザとなれば奪うというのは、時間差のある徴税という見方ができる。増税にアレルギーがある国民は政府に財政規律を求めてしかるべきだが、バラマキを許容してきたのだから、これも国民のサガとあきらめるしかない。
いずれにしても抜本策は一定の経過措置をとるにしても、基本的に「公的サービスはすべて税金」という方向に行くのか、行かないのか、を決めなくてはならない。行く場合には公的サービスの範囲を厳密に規定し、医療や年金で特別なレベルのサービスを受けたい人は自分で補填するか民間のサービスを受ける負担をするしかない。
第二はフローとストックの問題だ。高度成長期の日本では昇進と昇給が期待できた。所得税や法人税などのフローに対する課税で毎年歳入が増えた。今は様変わりしている。所得税も法人税も増えないなかで選挙対策で減税をちらつかせながら、見えにくいところで増税をするという小細工だ。足りない部分は、一番文句が出ない「将来から借りてくる」ということで、次世代の税金を増やす前提で公債を発行し続けてきた。麻薬のように日本国の身体を蝕んでいるが現役世代は痛痒を感じていない。
ここでもまた抜本策はストック課税である。不動産や金融資産に薄く広く課税するというやり方である。1%毎年課税すれば35兆円くらいになる。資産家は文句を言うかもしれないが、所得税が廃止され手元資金が潤沢になるので経済は活発になる。不動産の値上がりは増税につながるのでバブルに対する抑止力にもなる。
対立軸の第三は直間比率である。ここでは所得税や法人税に代わって5〜10%の付加価値税(間接税)を導入することを検討する。5%で25兆円の税収となる。資産税と合わせて60兆円。一番目で社会負担を別途徴収しないですべて税金ということなら、付加価値税は将来10%、約50兆円(歳資産税と付加価値税ですべての税収を賄うということは、所得税も法人税もなく、もちろん相続税もその他の細々とした税金もすべてなくなるということだ。唯一残すべきかどうか議論する必要があるのは揮発油税(2.8兆円くらい)であろうか。ガソリンを高くすることで無駄遣いに歯止めをかける効果があるという意見もあるからだ。だがその場合には無駄な道路に使わないで破綻寸前の国債の償還に使うとか、地球環境の改善に使うなどの目的税とすべきだ。
これが大前流「税制の抜本構築」をするための三つの対立軸である。5年後の完全実施を目指してさっそく議論だけは始めてもらいたい。