社会・文化
武富士倒産「裏舞台」の演出家たち
1300億円贈与税の奪還を目指すファミリーと有力スポンサーの関係
倒産した武富士は、現在、スポンサー選定作業が進行、5社に絞られた段階だが、同時並行の形で、武井ファミリーに課せられた1300億円の追徴課税の取り消し訴訟も大詰めを迎えている。
武富士倒産は、貸金業法改正と過払い金返還訴訟の急増でビジネスモデルが否定されたことによって起こった。一方、1300億円という史上最大の課税は、「サラ金の帝王」といわれた武井保雄元会長が、上場を果たして「わが世の春」を謳歌していた20世紀末、長男・俊樹氏に「課税なき贈与」を実行、それを国税当局に否定されて起きた。
まったく別次元の事件ではあるが、倒産と訴訟は、「ファミリーの思惑」という一点で結ばれる。どういうことか。順を追って説明しよう。
武富士が会社更生法を申請して倒産したのは、昨年9月28日のことである。ビジネスモデルの崩壊で「倒産もやむなし」と受け止められてはいたものの、資金は潤沢でその時点での倒産はいかにも早過ぎた。
事実、昨年6月末時点で負債総額4336億円。最も大きな負債は過払い金返還の未払い分が約1700億円。ほかに社債が926億円と営業債権を証券化して譲渡担保に入れた借入残が約300億円。銀行借り入れは数億円、残りは小口分散した一般債権なので、厳しく返還を迫られる要素などなかった。
それに対して、同じ6月末時点での営業債権は5011億円である。既に、新規貸し出しを停止、回収に専念していたからキャッシュフローは潤沢、年間1000億円程度を見込んでいたという。
倒産時、保全管理人となった小畑英一弁護士は、「過払い債務が最大で2兆円」と述べ、倒産(会社更生法の選択)しかないことを強調したが、過払い金返還は交渉次第でなんとでもなる数字。「再建を目指して最後まで頑張ったというより、余力を残して倒産した」という印象だった。
事実、会社更生法の申請は当時の清川昭社長(野村証券出身)とファミリーの武井健晃副社長の2人で検討、金融庁に相談のうえで進められ、他の役員はカヤの外だった。
その倒産選択に、「国家(裁判所)に恭順の意を示す思惑があった」というのは、武富士元幹部である。
「1300億円の課税処分は、一審でファミリーが勝訴、二審で敗訴するなど、どちらに転んでもおかしくない微妙なものだった。現在、上告しているが、ファミリーの弁護団は、最高裁が逆転の判断を下すという感触をつかんだ。だから、倒産してすべてを失ったという選択をした」
早晩、つぶれるのならファミリーに有利なうちにという選択。無責任ではあるものの、その後の課税処分取り消し訴訟の行方を眺めれば、納得がいく。
最高裁第二小法廷(須藤正彦裁判長)が、武井俊樹氏と国税双方の主張を聞く弁論を開くことを決めたのは、昨年11月12日である。最高裁は、二審の結論を変更する際に弁論を開く。従って、「課税は適法」として俊樹氏の請求を退けた東京高裁判決が見直され、課税が取り消される可能性が出てきた。
武井保雄夫妻から俊樹氏への「非課税贈与」は用意周到におこなわれた。
最初に、97年7月、俊樹氏が香港に住民票を移して非居住者(年間滞在日数が半年以上で日本に納税義務が生じない)となった。次に武井夫妻は、オランダに資産管理会社を設立、武富士株を譲渡した。そのうえで、99年12月、夫妻はオランダ会社の株式の九割を俊樹氏に贈与した。
オランダから香港への「外—外」の贈与。香港には贈与税や相続税がないので「申告の必要はない」という立場を武井ファミリーは取った。これに対して国税は、「非居住者」となったのは課税逃れのためで、武富士で役員を務めるなど生活の実態は日本にあったとして課税処分。贈与されたオランダ会社の株式には、約1600億円の価値があったとしてその額を「申告漏れ」と指摘、1300億円を追徴課税した。
当時、「外—外」での贈与税・相続税逃れが横行していたのは事実である。法によってしか課税できないという「租税法律主義」に照らせば、「居住実態は国内」という裁量で課税するのは好ましくない。従って、一審判決では俊樹氏の主張が通ったものの、二審は「居住実態」が認められて逆転課税。それほど複雑なのだが、国際的には「法の抜け穴をすり抜けた方が勝ち」という暗黙のルールがあり、最高裁は二審判決を見直すのではないかと言われている。
武富士株を最大の資産にしていた武井ファミリーにとって、株価が暴落、頼みの綱は既に納付している1300億円である。納付から判決確定の間には、年四%程度の利息もつくため、国が俊樹氏に支払う額は、1300億円プラス数百億円となる。
「恭順の意」を示そうという気になるのもわかるが、それを勧めたのは、奪還を求めて争っている訴訟の代理人弁護士。弁護士は、申立代理人に小畑氏を紹介したという。
「小畑弁護士は、企業倒産時に活躍する『倒産村』といわれる弁護士事務所のなかでも大物の瀬戸英雄弁護士が率いるLM法律事務所に所属しています。彼は、金融会社の破たん処理に強く、商工ローンのロプロが会社更生手続きを申し立てる際、申立代理人を務め、そのまま管財人に横滑りしました。従って武富士でも、小畑弁護士は保全管理人を経て法律管財人となっています」
法的再生には裁判所の意向が大きく働き、そのために裁判所に通じた「倒産村の大物」が重宝される。従って、小畑弁護士の影響力は大きいのだが、スポンサー選定作業は、現在、2月末に実施予定の第二次入札に応札する米ファンドのサーベラス、同じくTPG、東京スター銀行、Jトラスト、A&Pファイナンスの5社に絞られた。(後略)