記事(一部抜粋):2011年1月掲載

経 済

武富士と振興銀「倒産」の余波

「りそな」「三井住友」には再編観測【金融ジャーナリスト匿名座談会】

(前略)
A 武富士倒産の余波を考えた場合、注目すべきは、武富士の更正手続きの過程で、過払い利息の請求権者たちがどんな動きをするかという点だと思う。貸金業者が倒産すると、過払い請求しても戻ってくるカネはわずかという事実が歴然とした瞬間、他の貸金業者に対する過払い請求が急増する可能性がある。その場合、最大のターゲットになるのはアイフルだろう。アイフルは現在、企業再生ADRの下で金融支援を受けているが、果たして銀行団、なかでもメインバンクの住友信託、準メインのあおぞら銀行がどこまで踏ん張れるか。
B しかし監督官庁の金融庁は、ほとんど他人事のようなスタンスだ。
C 官僚特有の逃げの一手なのかな。。
B むしろ、武富士に続いて、もう1社、2社が倒産するなど混乱が拡大し、政治の世界から「貸金業法は厳しすぎた。見直しをしよう」という話が出てくるのを待っているという感じだ。自分たちの失敗が問われない形を探っているんだろう。
A もう一つの日本振興銀行のほうは、預金の概算払い率が発表され、金融庁は振興銀の設立経緯までさかのぼって調査する検証委員会を設置する、という話になった。
B 検証委員会は自見庄三郎金融担当相の発案だ。金融庁の役人たちはかなり慌てている。
C 自見氏にすれば、振興銀設立時の金融担当相だった竹中平蔵氏、さらには小泉政権まで含めて「けしからん」という話に持ち込みたいのだろう。自民党へのネガティブキャンペーンだ。
B しかし、金融庁の役人は、今さら昔の話を蒸し返してほしくない。
A 当時は竹中氏、木村剛氏(その後、振興銀会長)、五味廣文・金融庁長官の3人が密接な関係にあった。木村氏が創刊した雑誌の創刊号には、竹中、五味の両氏が大きな写真つきで登場していた。その関係にまで検証がいくと、金融庁の立場も危うくなりかねない。金融再生プログラムを検討したプロジェクトチームは、木村剛氏もメンバーだったが、そこで中小企業向け融資の専門銀行という振興銀の土台のような話が浮上し、実際にプログラムに盛り込まれた。しかし、その議論がどう行われたのか。議事録はないという話だ。
B 役所ではあり得ないことだ。それを黙認した当時の金融庁長官は何をしていたんだという話になる。しかし、そこまで追及するとややこしくなる。だから、検証委員会は尻すぼみで終わるだろう。政権も不安定だし、気がついたらいつの間にか検証委員会は休眠状態だった、という顛末になると思う。
C しかし、概算払い率や検証委員会の設立という話になっているなかで、肝心の振興銀の再生作業が進まないね。何をもたついているんだろう。
A まったくだ。武富士が1次入札まで実施したというのに。
B しかし、ノンバンクと銀行は違う。一緒にはできないよ。
C そうかな。振興銀は、高利の預金を集めるノンバンクのようなものだったじゃない(笑)。
A 振興銀の破綻処理に関しては、足利銀行と同一に見る向きがある。しかし本質的には違う。足利銀は絶対になくならない、重要な銀行だ。しかし振興銀はそうではない。足利銀と同じ目線でとらえることはできない。
B そうかもしれないが、問題は預金保険機構が関わっていることだろう。しかも、事業承継型の処理でありながら、振興銀は預金の全額保護がなくなった第1号案件だ。だから預金保険機構は必要以上に力こぶが入っているようにみえる。後々問題を指摘されないよう慎重にやっているという感じだ。だから時間が掛かっているんだ。
C 慎重にも慎重を重ねているというのは、確かにそうだろう。しかしそれは大いなる過ちだ。なぜなら、時間が経過するほど、振興銀の企業価値は劣化する。劣化すれば、ロスが拡大し、買い手がつきにくくなる。預金問題で時間がかかっているというけど、それは預金保険機構が預金保険制度を実行するという単純な話だ。買い手探しに全力投球しないと、ロスだけが膨らんでしまう。
A 銀行の破綻処理に関しては、金曜日に破綻させ、翌週の月曜日に新たな買い手の下で新銀行に生まれ変わらせるという「金・月処理」が随分と検討、議論されてきた。それができなかったことが致命的なのかもしれない。結局、破綻処理が後手に回ったということだ。
C 別のテーマに移ろうか。この2つの破綻企業以外の注目銘柄は?
B 東京スター銀行だろう。
C やはり、そうきたか(笑)。東京スターに対しては金融庁の検査が行われているが、この検査は特別だ。第二地銀は財務局が検査を担当することになっているが、東京スターには今回、本庁の検査部隊が入っている。これはただごとではない。厳しい資産査定が行われていることを意味している。
A 貸倒引当金の大幅な積み増しとなるのは確実だろう。過小資本に転落する可能性も否定できない。そうなったら、いったいどこが出資するのか。(後略)

 

※バックナンバーは1冊1,100円(税別)にてご注文承ります。 本サイトの他、オンライン書店Fujisan.co.jpからもご注文いただけます。
記事検索

【記事一覧へ】