記事(一部抜粋):2011年1月掲載

政 治

「天下り根絶」が「天下り推奨」へ

「現役出向」が一人歩きをはじめる【霞が関コンフィデンシャル】

 いま霞が関で話題になっている人物がいる。といっても、表立って注目を集めているわけではなく、あくまで水面下での話だ。
 古賀茂明1955年生まれ。80年東大法学部卒業。同年通産省(現・経産省)に入省。2003年に産業再生機構執行役員。経産省の経済産業政策局経済産業政策課長などを経て、08〜09年に国家公務員制度改革推進本部事務局の審議官を務めた。バリバリのキャリア官僚だ。ただし現在は、報復人事によって、経産省官房付というポストにいる。
 もともと「筋金入りの改革派官僚」(経済官庁OB)として知る人ぞ知る存在だった古賀は、鳩山内閣発足当初、その能力と改革姿勢を買われて、いったんは行政刷新担当大臣(当時)・仙谷由人の補佐官への抜擢が内定した。ところが、霞が関各省から強い反発があり、仙谷は断念した。
 09年12月17日まで国家公務員制度改革推進本部の審議官をしていたが、担当大臣・仙谷の方針による幹部入れ替えがあったため、経産省に戻され、そのまま1年間がたっている。経産省官房付というポストは、次の人事異動までの待機ポストでり、これほど長期にわたるのは極めて異例である。抜擢どころか、完全な格下げである。
 古賀は、民主党政権の公務員制度改革に逆行する姿勢に批判的で、経済誌に、現役官僚として異例の批判論文を発表している。たとえば『週刊エコノミスト』6月29日号でこう主張している。「高齢職員の出向拡大や窓際ポストの新設などは若手の意欲を削ぐ。このような幹部クラスの既得権維持ではなく、意欲ある若手官僚の声を聞いて公務員制度改革を進めよ」。至極まっとうな内容である。
 11月15日の参院予算委員会に、古賀は政府参考人として出席し、公務員の「天下り根絶」を掲げる民主党の改革姿勢は不十分だと批判した。
 その際に古賀が取り上げた「現役職員の民間企業への出向拡大」などは、民主党の逆行姿勢の典型例だ。この「出向拡大」は、菅政権が参院選挙の直前の六月に駆け込み決定した「国家公務員の退職管理基本方針」に明記されたものだ。
「現役出向」という制度は、もともと若手の職員を対象とし、役所仕事ばかりだと世間知らずになるから、若いうちに役所の外の空気を吸って仕事に生かすという主旨のものだった。それを、退職間近の職員まで対象を広げたのが、6月に菅政権がおこなったことだ。
 現役出向を若手職員に限っていたのは、民間企業など受け入れ側への配慮もあった。つまり、若手であれば役所からの影響力もないので、民間企業が無用なプレッシャーを感じずに済むだろうということだ。しかし退職間近のベテラン職員といえば、役所では課長・審議官級の幹部である。そういう幹部が、役人の身分のままで出向という形で来たら、民間企業はどうもてなしていいのかわからないだろう。従来の天下りは、役職を辞めた後の再就職であり、当然、身分は役人ではなかった。役人のまま「出向」で来られるほうが、企業にとっては始末が悪いのではないか。
 いずれにしても、古賀が証言したように、「現役なら問題ないというのは不思議なロジックだ。公務員の身分を維持して(民間などに)出て行っても、(退職後の天下りと)同じことが起こる可能性がある」のだから、事実上の天下りと変わらない。
 自民党政権の時代には、「現役出向という禁じ手を使えば、野党である民主党から必ず『裏下り』と批判される」というのが霞が関の常識だった。ところが菅政権は、「裏下り」を批判するどころか、その禁じ手を自ら使ってしまった。これまでの「天下り」を「現役出向」に置き換えることで、「天下り根絶」ではなく、「天下り推奨」になった。
 この「退職管理基本方針」を具体化するために、いくつかの看過できない改正が官僚によって速やかに進められている。
 官僚が企業に現役出向中も公務員在籍と同じ退職金算定の期間に組み入れられ、出向が不利にならないようにする制度はこれまでもあった。ただし退職金算定で不利にならないのは、一部特定企業への出向に限られていた。七月、政令が改正され、こうした退職金の算定対象となる企業が追加され、NTTグループや日本郵政グループ、JR、高速道路会社などが新たに対象企業となった。事実上、天下り拡大への地ならしがおこなわれたのだ。これらの企業は、民営化されたものの、再び「役所の植民地」になった。
 8月には人事院規則が改正され、これまで「部長・審議官以上の幹部は『所属する省庁の所管業界』へ派遣できない」とされていたのが、「部長・審議官は『担当する局の所管業界』へは派遣できない」と変更された。つまり、部長・審議官は自らが身を置く局の所管業界でさえなければ、省所管の企業にいくらでも派遣可能となった。部長・審議官ともなれば、その役所に30年くらい居て、様々な部署を経ている。現時点で担当している部局以外であれば、仮に直前まで担当していた業界であっても派遣できることになったのだ。しかし、以前担当した業界だとしても、部長・審議官クラスともなれば、業界幹部に十分顔が利くはずだ。
 さらに、癒着を防ぐためには民間企業への派遣終了後の再就職を禁じるべきなのに、役所に戻って定年退職した後なら再就職しても構わないということになった。これでは中高年の職員は、企業に派遣されている間に企業側と密約し、退職後の雇用について約束を取り付けておくことが可能になってしまう。(後略)

 

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