記事(一部抜粋):2010年11月掲載

経 済

「武富士」倒産劇の舞台裏

経営陣・法律事務所・裁判所の「三方得」【金融ジャーナリスト匿名座談会】

(前略)
A あの武富士もついに倒産した。
C 過払利息返還の嵐と貸金業法改正というダブルパンチを受けて、いずれどこかの消費者金融が破綻するという見通しはあったが、その本命格だったのが武富士だ。その意味では意外でもなんでもないが、今回のあまりにあっさりとした倒産劇には理解しきれないところもある。
A 確かに、もう少し頑張ってもよかったという気もする。「これ以上、経営を続けると企業価値が下がって再生ができなくなる」と武富士側は、このタイミングでの会社更生法申請を説明していたが、本当にそうなのだろうか。
B 過払利息返還の嵐は確かに大きかった。それは認めるけど、経営を放り投げたという印象もある。お二人がおかしいと感じる部分はそこに根ざしているんだと思う。
C 最大の疑問は、なぜDIP型の会社更生法だったのかということだ。DIP型は民事再生法と似ていて、経営陣が残ることができる。そうであれば民事再生法でもよかった。なぜ、わざわざDIP型だったのか。
B 会社更生法は経営陣が総退陣して裁判所が選任した管財人が再建を主導するが、DIP型では、経営陣のなかから管財人が選ばれ、更正計画策定にかかる時間が短くなるといわれている。
A それはそうだが、会社更生法は当該企業が地裁に申請し、DIP型にするのかどうかは地裁が判断するというのが筋だ。これは建前と言ってもいいけど、やはり、判断するのは地裁だ。ところが、その点で不思議なことが起きた。今回の一件をスクープした『日本経済新聞』は会社更生法申請前の時点で、武富士がDIP型の会社更生法を申請するという記事を出した。武富士が地裁に申請する前に、東京地裁が申請後に判断する部分まで「スクープ」したわけだ。
C それはすごいね(笑)。
A 武富士は当初、10月1日に会社更生法を申請するつもりだったが、9月27日に日経などの記事が出て、結局、9月28日に前倒し的に申請することになったようだ。
B 27日は月曜日で、その前の土日には、日経以外のメディアも激しくこの問題を追っていた。むしろ日経よりも共同通信やNHKのほうが早く動いていたと聞いている。しかしスクープしたのは日経だった。
A 記事の内容も非常に特徴的だった(笑)。DIP型の会社更生法であると特定しただけでなく、内容自体も詳細だった。それと武富士に同情的だった。
C 確かに過払返還といい改正法施行といい、業界に吹き荒れる逆風には、同情する部分はある。しかし、経営が破綻したとなれば、経営責任を指摘するのが筋だ。日経の記事にはそうした記述がほとんどなかった。日経新聞の記事は、そのの点で突出していた。
A 各社の記者たちにも同じような感想を述べる者が結構いたよ。スクープには違いないんだけどね。
B それにしても、会社更生法申請前にDIP型というと記事が出たということは、東京地裁にしてみたら、自分たちが判断することをメディアが先取り的に報じられたということだろう。やはり問題視すべきではないか。なにしろ記事は、DIP型の可能性もある、といった表現ではなかったのだから。
C 誰かに懇切丁寧に説明してもらったから書けたということだろう。
B 誰かって地裁の誰かということ? それはあり得ない。
A 地裁でないとすれば、申請をする側しかない。しかし、それは立場上、あってはならないことのはずだ。下手をしたら手が後ろに回る。
B 武富士の保全管財人になった法律事務所はLM法律事務所だ。ここはロプロ、SFCG、穴吹工務店と、立て続けに大型倒産案件を引き受けているし、DIP型の会社更生法案件は一手に引き受けている。
C そこが保全管財人になって、DIP型というのも出来すぎた話だな。
B ある筋から得た情報だが、LM法律事務所と武富士は7月ごろから会社更生法の申請を話し合っていたという。
C だとすると、丹念に準備された倒産劇だったということになる。
A しかもDIP型だ。経営陣は残ることができる。経営責任の追及が緩和される余地がある。
B そこに、過払利息の重みで倒産したという同情的な記事が加われば、経営責任追及というムードがさらに緩和されてもおかしくない。深読みかもしれないけど、そう見える。
C DIP型の会社更生法のはそれほど歴史がない。最近になって導入されたものだ。きっかけは、かつては会社更生法だけだった法的整理に民事再生法が加わったこと。そこから再生型の破綻処理は多様化した。これを地裁、特に東京地裁の立場からみ説明すると、会社更生法を担当する民事8部はかつて大忙しだったが、最近は閑古鳥が鳴いていたといいう話になっていく。
A どういうこと? よく分からないんだけど。
C つまり、再生型の破綻処理ではほとんどが民事再生法を申請するようになってしまった。民事再生法を担当するのは民事8部でなく、民事20部だ。だから20部は大忙しなのに、民事8部は仕事が減ってしまったということ。(後略)

 

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