夏の夜といえば「幽霊」というのが通り相場だが、最近日本で徘徊している幽霊の正体を暴いていくと、前代未聞の捕り物帳になる可能性が出てきた。とっくの昔に死んでいるのに届出をしないで子孫が年金を猫ババするケースが相次いだために、各自治体で100歳以上の高齢者を緊急に調査している。すでに「死後100年以上経っている」などという気味の悪い話も出てきているし、ミイラ化した親を「まだ生きている」と言い張るケースも報告されている。
要するに性善説と性悪説という単純な区分けをすれば、日本人を性善説で統治することの誤りがどっと噴出した感じである。もちろん、データそのものの管理をきちんとやってこなかった旧社会保険庁や、年金受給者のベースとなる住民票や戸籍を紙ベースで管理してきた自治体も問題である。存在しない人に「100歳の祝い金」を自動的に発送したり、出掛けていって本人確認するのが常識であるのに、電話だけで済ましている。年金需給対象者は4000万人いるといわれているが、宅配便業者に頼めば1日ですべて調査してくれるだろう。
今やるべきは、65歳以上の日本人すべての調査だ。おそらく100万人規模の行方不明者が出てくるだろうし、不正受領額は2兆円くらいになるかもしれない。世界一といわれた日本人の寿命も数年縮むかもしれない。世界に大恥をさらすことになる。
そこで改善のための提案をしたい。
まず国民データベースを一刻も早くつくる。たとえば健康保険を1年以上使っていないなどのチェックは、紙台帳では自動的なスクリーニングをやりようがない。
1、最低年1回はドクターが往診し、生存も含めた本人の健康状態をチェックする。私の住んでいるところでは、65歳以上の年配者に対して年1回の人間ドックを無料で実施している。何より大事なことは、ドクターが家庭訪問することである。居場所がわからなかったり、面会を拒否されたら、ドクターに年金をストップさせる権限を付与するなど、性悪説に基づいた法律を施行する。本人または同居人は年金の復活を申請してもいいが、最低限の条件は本人確認とする。
2、「年金泥棒」が判明した場合には特別に厳しい実刑とする。国家財政が危機に瀕しているときに、死亡届も出さず、死体遺棄および詐欺を働いた罪は厳罰に処するべきである。いくら生活が苦しくても、このようなことは人間としてあるまじきことであり、かつまた国民としての最低の義務を果たしていない。罰金だけではなく実刑を科することによってのみ再発防止が図られるものと考える。
3、年金泥棒の再発した自治体は、担当者の過失により国家財産が詐取されたわけであるから、これまた起訴されるべきだ。そうした役所の責任を問う法律はないが今後は重過失も視野にいれた法的処置を考えるべきであろう。
これらのうち、1は今年2月号の本欄で指摘したものだが、国民データベースを構築する広範な作業の一環としてやらなくてはならない。総務省は「住基ネット」をベースにしようとしているようだが、冗談ではない。各自治体毎に導入したこのシステムは390億円もかけて利用率は1%に過ぎない。携帯電話で電車の改札口が通過できる我が国において、まさにガラパゴス状態のシステムは破棄して新たにつくるべきだ。パソコンでさえ最近は40〜60GBのメモリーがついているのに住基ネットに入力されている全情報は僅か10GBといわれている。その維持費に年間180億円もかけているような神経の持ち主(総務省とそれに寄生するサイバーゼネコン)を助長させてはいけない。
国民の戸籍・住民票・健康保険・年金・自動車免許・病歴などを一元管理するデータベースを早急に設計すべきだ。携帯とプッシュフォンですべての国民と双方向につながる行政システムの構築の中で、年金泥棒を捕まえていく以外に名案はないだろう。